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劇夜を越えて朝がくる

昨日は移動する羊史上初の公演前日、公演中止の夜が終わり、僕は今から劇団からくりありあの稽古です。

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by moving_sheep | 2010-10-31 09:01 | takeke | Trackback | Comments(0)

これは僕の妄想かも

ごめんなさい。

『妄想収集家』

公演中止になりました。

理由をどう書くべきか?
本当のことを書くのか、それとも、一般的(なのかな?)に諸事情により的な感じでお茶を濁すか、いやいやそれは、どうなの?とか自問自答を繰り返し、結局今の時間になってしまいました。連絡すべきところには連絡をして、しかしなんだかその後はボーっとして。はてさて。

ま、でも、書くかな、と。

これはこれで良い経験でした。

知りたくない人はスルーしてください。

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by moving_sheep | 2010-10-30 20:15 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

彼は重ねる。
繰り返しクリカエシ悪行を重ねる。
それは生命をまっとうする悪行だけではない。
魂を渡り歩く悪行。
つまり時代を超えて積み重ねられる、行。
徳を積むのではなく。
悪を積む。
さらなる純粋な悪を目指すべく。
転生を繰り返し、悪を積む。
そして彼は濾過されて、純粋なる悪魔になって空から降りてくる。




彼は何度も何度も失敗した。
悩み、足掻き、思考した。
ただ思った。
ただ考えた。
それは生命をかけての思考だけではない。
魂を渡り歩く思考。
つまり時代を超えて積み重ねられる、考。
徳を積むのではなく。
悪を積むのではなく。
思考を積む。
さらなる純粋な思考を目指すべく。
転生を繰り返し、思考を積む。
そして彼は濾過されて、純粋なる人間になって大地から空を歩く。



そして長い旅路の果てに、最後の場所で二人は出逢う。
出逢い、また出逢い、さらに出逢う。


そうして彼らの本当の物語は始まった。


なにはともあれ、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-29 17:47 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

彼は空から降りてきた

少年は、世界の川を下る、長い白髪を後ろに束ねた老人に出逢ったあとに、もうひとつの彼の人生を左右する、大きな出逢いをすることになる。それはある意味、生涯の伴侶に出会う奇跡にも似た出逢いだった。
いや、ほぼ、そうであったと言うべきか?
それは秋の終わり、少年のクラスに転校してきた、緑の瞳をしている少年との出逢いだった。

「はじめまして、九龍真といいます。日本に帰ってくるのは5年ぶりです」

真はニコリと笑顔になった。
その瞬間、クラスの女子は悲鳴をあげた。

小学4年生にしては、なんだか大人びた少年だった。海外を父親の仕事の都合で、転々としている彼は、同年代の子供に比べて、経験値が明らかに違った。彼は必ずしも、治安の良い、安全な場所で生活していたわけではなかったからだ。彼は、中東にいたときに、いくつかの死とも直面していた。10メートル先で自爆テロが行われた事だってある。その彼が大人びてしまうのは、むしろ自然なことだったのかもしれない。

勿論、クラスの女子はそんな背景など知らない。
女子たちにとって、色白で美形で笑顔が素敵で、ちょっと大人びた頼りになりそうな少年が目の前にいる、だけだ。
そして彼女たちはそれだけで、良かった。
背景などむしろ関係なかった。
何故、彼がここまで美しくあれるのかは、関係なかった。
目の前のフォルム。
それだけだ。

そうなると、やっかみが出てくる、男子との付き合い。

しかし、九龍真は、むしろ男子のほうに圧倒的に支持された。
彼は物知りだったし、勉強をみんなに教えてくれたし、何より付き合いが良かった。誰とでも遊ぶし、話題も豊富だったし、よく冗談を言っては皆の笑いを誘っていた。
そして何より決定的だったのは、6年生のちょっとガラの悪いグループが、~少し緑の入った瞳のイケメンが幅を利かせてるらしい~、との噂を聞きつけて4年生のクラスに乗り込んできた時だ。
真は胸ぐらを掴んできた上級生の腕を、ひねり、ねじ伏せこう言った。

「僕はブラジルのリオデジャネイロにいた時に、ストリートチルドレンのあるチームにいたことがあるんです。知ってますか、ストリートチルドレン?家なき子です。路上で暮らす子供たちです。生きるためには何でも、やる。まあ、いわゆる少年ギャングに出入りしてたワケですよ。そう、裕福で、日本人の僕がですよ?何故かって?それは、知るためですよ。そう、僕は知るために、そこに、いた。なにはさておき、僕が言いたいことは、先輩は死を身近に置くことができない。僕はむしろ、死のソバにいた。言っている意味、ワカリますか?」

もの静かな優しい口調。
でも、リオの風が彼の背後から吹く。
それは混沌の闇。
闇から放たれる、恐怖。
上級生は捨て台詞すら言えずに、帰っていた。
その瞬間、クラス中に歓声が上がった。

「真すごいじゃないか!」
「そうだよ九龍君、あいつらにはカツアゲされたりして、みんな困ってたんだ」
「私なんか、スカートめくられたりして」
「おい、あいつら、これから俺らのクラスに頭上がらないぜ」
「なんせ、俺らには九龍くんがついてる」
「ねえ、さっきの話ホントなの?」

「まさか。確かにリオにはいたけど、僕がそんな集団に入るワケないじゃないか。かなり、危ないやつらなんだよ。それを束ねるなんて。勿論、父親の方針で、いくつかの格闘技は習ってるんだ。まあ、護身術程度だけどね」

そうして彼はクラスの人気者になった。
いや、噂が広がり、学校で一目置かれる存在になった。
でも彼はそんな状況にも惑わされず、いつも謙虚だった。
それがますます彼の人気度をあげた。
誰もが、彼と友達になりたがった。

しかし、九龍真が選んだのは、秋津和人だった。

つまり、真は、和人のことを気に入っていた。話しかけ、誘い、共に遊んだ。二人で一緒に居る時間も増えた。いや、むしろある時期から、ずっと二人は一緒だった。誰もが認める、仲良しだった。
真は、和人のいつも自然体な自由な気質を尊敬していたし、和人は真の、何物にも揺るがない生き方を尊敬していた。

二人はお互いの家にも行き来するようになった。
週末はそれぞれお互いの家に交互に泊まるのが、恒例になった。
まるで双子の兄弟のように二人は一緒だった。
両家の親たちも、それぞれを、まるで自分の息子のように可愛がっていた。

でも、ある時から、和人の父親の気持ちの歯車が、ズレた。

もともと、和人の両親は、和人に対して少し恐怖みたいなものを感じていた。
『この子は本当に、自分の子供なのか?』
その違和感が、あまりにも完璧なもう一人の息子に接することで、噴出したのだ。
少しずつ、何かがズレて、きた。
始まりは些細な出来事だった。
和人はよく考え事をする。色々なことを頭に描く。すると、あまりに集中して、まわりの音が聞こえなくなることがしばしばあった。逆に、聴覚が異常に鋭くなることもあったのだが。それは一流のアスリートがたまに見せるソレだった。タイミングが悪いことに、その時は聞こえなくなってしまうほうだったのだ。だから、父親の呼び声に気づかなかった。そして、彼は初めての痛みを味わう。鈍い痛みが、左耳の奥のほうに走った。
その突然の痛みに顔を上げると、父親の顔を真っ赤にして睨みつける姿を確認した。

それからだ。

彼は、日々エスカレートしてゆく父親の暴力を、甘んじて受けることになる。
このことは、真にも話せなかった。
何故なら父親は、ソレを『教育』と呼んだ。『躾』と言った。
和人は、頭が良かったが、それと同時にすべてを受け入れようとする、覚悟みたいなものがあった。だから、これは、きっと自分にとって必要なことなのだと、思ったのだ。父親との関係が正常な判断を鈍らせたのかもしれない。普段はもっと自己判断と自己主張がしっかりできる子だった。そして和人は同時に思っていた。いつか父親の『教育』の形も変わるだろうと。しかし実際はどんどん酷くなってゆく。
4年生の終わる頃には、顔以外の身体のいたるところに痣があった。

そんなある日、真がまた日本を離れることが決まった。
5年生に上がるのと同時に、日本を離れることになった。

和人の心は疲れていた。
その唯一の支えが、九龍真の友情だけだったのに、その彼が遠くへ行ってしまう。
だが、勿論、子供である和人達は甘んじてソレを受け入れるしかない。

真が日本を離れる前日、二人は和人のお気に入りの川べりの樹の下で、川を見ながら話していた。

「いよいよお別れだな、和人」
「ノルウェーか、遠いね」
「またいつか会えるさ」
「そうかな?」
「必ずだよ。何故なら僕らは出会うべくして出会ったのだから」
「うん。そうかもしれない」
「なあ、和人」
「なに?」
「最後に」
「うん」
「君、お父さんになぐられてる、よね?」
「え?」
「僕が気づかないワケないだろう」
「それは、そうかもしれない、とは、思ってた」
「気づかないワケない」
「うまく隠したつもりだけど」
「ワカルよ。何故なら、それ、僕がそうするようにしむけたんだ」

「え?」

「君のお父さんが、『どうやったら和人は真君みたいな良い子に育つんだろう。爪の垢でも煎じて飲ませたいよ』って言うから、言ってあげたんだ。“殴れば、いいんですよ”。『え?』。“簡単です。殴ってちゃんと教育してあげれば、大抵の人間は良い子になりますよ”って言ってあげたんだ」

「真、おまえ、何を言ってる」

「意外と簡単に、殴るようになった。もうちょっと時間かかるかなって思ってたけど、ね」
「何故だ」
「ん?」
「何故、お前がそんなことをするんだ」
「うん」
「なんだ」

「知りたかったんだ」

「知りたかった?」

「この世で一番大好きな人が、大切な人が、壊れてゆく様は、どんな気持ちがするんだろうって」

「そんなことで?」
「そんなこと?とても大切だよ。僕にはとても大切なことだ」
「どうだった」
「え?」
「それで、俺が壊れてゆく様は、どうだった」
「痛かった」
「痛かった?」
「セツナカッタ」
「セツナカッタ?」
「苦しくて、悲しくてそして、美しいと思った」
「美、し、い?」
「壊れてゆく君は美しいと思った。思ったとおりだ。やっぱり君は美しい心を持ってる。そして僕の心は痛みと同時に満たされてゆく。意味を持ってくる。なんて素晴らしいんだ。君は美しさだ。僕はおぞましさだ。二人でまさに世界そのものだ」
「いや、むしろ逆だ」
「逆?」
「おまえのほうこそ、美しい。おぞましいのは俺のほうだ。この心の中の闇こそ、まさに、おぞましい」
「こんなことをした僕を、美しいと言うのか」
「尊敬してよ。そのゆるぎない姿を」

「やっぱり、君は、素敵だ」

「なあ。ブラジルのリオの話。本当だろう?」
「なんで?」
「お前はあの時、“束ねる”って言ったんだ」
「へえ」
「組織に出入りしているって言っておいて。でもポロッと、“束ねる”って。ああ、これはきっと、本当のことなんだ。と、思った。こいつはブラジルで悪事をしてきた。いや、それこそ、人を殺したのかもしれない。お前は、死のソバに、いる」
「それでも、僕と付き合ったんだ」
「言ったろ。尊敬してんだよ」
「奇遇だ。僕も本当に、大好きだよ」
「気色悪い、会話だ」
「そうだね」

二人はクスクスと笑った。もうすぐ完全な春がやってくる。

「ねえ、和人」
「なんだ」

「また、逢おう」

「ああ。また逢おう」

二人の上には、透きとおるほどの蒼。ほんの一瞬だけ未来が映る。
そして金木犀の香りがした。





とにかく、あがいて、あがいて、たどり着くしかないベ。


なにはともあれ、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-29 12:44 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

僕が十代最後の歳に、ある年上の女性に会った。

彼女は日々のあらゆることを感じ、想い、考え、そして記憶した。
ささやかなことにも意味を見いだし、怒り、喜び、悲しみ、でもいつも次の瞬間には笑っていた。
彼女は楽しんでいた。
生きる瞬間、瞬間を楽しんでいた。
そして同じくらい傷ついていた。
何故なら瞬間の痛みすらも記憶していたから。
彼女にとってすべてが等しい価値があった。
どんなことも、ないがしろにしない人だった。
痛みも喜びも怒りも悲しみも楽しさも、同じように大切に扱う人だった。

そして忘れない彼女は、他人がいとも簡単に忘れてゆくことで傷ついた。

一度だけ、彼女が強く素敵だと感じた僕の言った一言を、僕は忘れていたことがあった。
その時彼女は絶望的に悲しい瞳で、優しく言った。

「だって武博君が言ったんだよ」

僕はその時、ハッとした。
彼女のその悲しい瞳を、僕は今でも忘れられない。

僕はそれ以降、なるべく自分の言ったことを忘れないように心がけた。
他人の言ったことを忘れないように心がけた。
勿論、人間なので限界がある。
人は忘れてゆく生き物だ。
それでも僕は日々の風景を、空気を言葉を意味を想いを表現を痛みを、感じ、忘れないと、誓った。

そこから僕は“人間”への道を歩いている。

少しずつ人間に向かっている。
まだ道なかばだ。
まだトカゲくらいだ。

僕は脚本が出来て演出をしている時に、久しぶりに彼女のことを思い出した。

僕に優しく未来を示した彼女のことを。


本番まであと2日。

僕らは稽古場で、感じ、想い、考え、そして記憶する。
そして目指している。
ただひたすらに目指している。

でも大変だから、心ではめちゃくちゃ泣いている。
笑え!
笑うんだ!
笑う門には未来がくる。


なにはさておき、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-28 22:08 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

彼女が父親を亡くしたのは、彼女が9歳の時だった。

彼女は一人っ子で、とてもとても愛されて育てられた。
母親は子供が出来にくい体質だったため、遅くして子供を授かったので、それはそれは一人娘を溺愛していた。
母親はとても感情豊かで、それこそ激情的な性質を持ち合わせていたが、それ以上に優しかった。普段はもの静かで、ゆったりして、食事はあまり摂らない。
部屋はいつも綺麗にして、あまり生活感を感じさせなかった。
そしてなにより辛抱強い女性であった。
母親は彼女が百科事典を見ながら(大抵の子供が好きなように、彼女も動物の写真に興味をしめし)「これは何?どうして首が長いの?何を食べるの?」とひたすら質問をされ続けても、母親は笑顔でずっと答えることが出来た。むしろ母親は幸せだった。彼女も飽きることなく、一つのことをやり続ける子供だったので、二人の幸せは、朝から晩まで続くこともしばしばだった。
彼女がオハナシを作るようになってからも(世の一般的に子供がそうであるように)その物語を聞き、手助けをし、共に物語を楽しんだ。

彼女の父親はそんな二人を見ながら、子供が出来て本当に良かったと心から思っていた。

そんな彼女はある自覚があった。

“私はこの世に生まれてからずっと、世界に流れていた音楽を覚えている”

彼女がこの世で一番最初に聞いた音楽は、Angel Eyesという曲だった。彼女が生まれたのは1990年代で、その頃にスウェーデン出身の男女4人組の、ACE OF BASE(エースオブベース)というバンドがあった。90年代に世界で最も成功したバンドの1つだ。ファースト・アルバムが全世界で2300万枚という驚異的な記録を樹立するに至る。しかし4年後にリリースされた4枚目のアルバム“Da Capo”が失敗すると、そのまま休眠状態に入ってしまったのである。Angel Eyesはその2枚目アルバムThe Bridgeに入っていた。
彼女の母親は音楽が大好きだった。
ずっと分娩室で音楽を流していた。
出産には10時間かかったが、母親の好きな様々な音楽が流れた。
そして、ちょうど彼女が生まれた瞬間にACE OF BASEAのAngel Eyesが流れたのだ。

彼女は生まれ、聞いた。
そして記憶した。
彼女の母親が奇しくも一番好きだった歌を。

それから彼女は様々な音楽を聴き、覚え、そして口ずさんだ。
小さい頃から、母親と歌を歌った。
時には、自分で創作した歌を、歌った。
そしてその作った歌は、毎晩必ず、お風呂で一緒に入る父親に、歌われることになった。歌詞もメロディーもメチャクチャだったが、父親は“この子は天才かもしれない”と、世間一般の親と同じく、感動して娘を褒めちぎった。
父親は実にたくさんのことを褒めた。

レゴブロックの彼女の創造能力を。
風呂場で語られるイルカの旅物語を(もっともずっと、じゃぱーんと言い続けるだけだが)
シャンプーの空ボトルのたくさんの呟きを。
すぐ部屋を片付けるクセを(母親の影響だ)
音楽に合わせて踊る、動物ダンスを(実に様々な動物を擬態し、表現した)
キャッチボールのキャッチ力を(なんと取る瞬間は父親の瞳を見て取る。ボールは見ない)
天気とお話出来る感受性を。
父親を叱ることを(猫背を注意し、彼はまさに猫背が直った)

そんな父親は彼女が9歳の時に、すい臓を中心としたいくつかの臓器に転移した癌が発見された。発見されたときは、もう余命2ヶ月だった。でも、誰もが信じられなった。父親はまるっきり元気だったのだ。微塵も病気を感じさせることはなかった。でも、病気が発見されると、父親はあっという間に、衰えた。
不思議なものだ。
病気だという認識が、彼の病気を悪化させた。
気付くということは、そういうことなのかもしれない。

秋の終わり。
その日はやってきた。

父親は母親に頼んで、娘と二人にさせてくれないかと頼んだ。
彼の希望で、延命治療は行わず、海辺のホスピタルでのことだった。
父親は窓から、砂浜が続く海辺を少し眺めていた。海辺に続く小道にはたくさんの金木犀が植えてあり、黄色い花を咲かせていた。彼は少し逡巡して、何かを決意したかのように娘のほうを振り返り、彼女の瞳を見て、優しく言った。

「優、お父さんの今の状態はワカルか?」
「うん」
「僕はどうなる?」
「うん。・・・死んじゃう」
「死とはなんだ?」
「この世界からいなくなること」
「でも僕はきっと生まれ変わる」
「うん。だから、また何処かで会える」
「お前とこれからも、何度も何度も、出逢う」
「うん。また、出逢う」
「だからこのワカレは?」

「悲しくことじゃない」」

父親は優しく笑った。
そして真剣な顔をして彼女の肩を掴んだ。
彼の瞳が少女を見る。
少女も父親の瞳を見る。

「いいか。これから話すことは真実だ。そしてそれをどう判断するかは、優、君しだいだ。でも、僕は、優なら、きっと意味を持って、このハナシを受け取ることが出来ると思っている。だから君に話そうと思ったんだ。いい?聞いてくれる?」

彼女は少し迷った。
怖かった。
聞くことがじゃない。
この言葉を聞くと、それが父親の最後のような気がしたのだ。
それでも彼女は、力強く、頷いた。

「聞く」

彼も微笑み、頷いた。

「お母さんは長いこと子供が出来なかった」
「うん」
「ずっと子供を授かる治療をして、それでもやっぱり出来なかった」
「私が生まれるまで、たくさんの時間がかかったんだよね」
「そう。君は、僕らが時間をかけて授かった、愛の歴史なんだ。時間がかかったけど、そのかかった時間の分の愛がつまった存在なんだ。それは自信を持っていいことだ。優。素敵なことだ」
「私の中にはたくさんの愛の時間がツマッテル」
「そうだ。だからお母さんが妊娠した時は、それはそれは大喜びだった」
「うん。私も嬉しい!私、生まれてきて良かった」
「僕もだ。君が生まれてきてくれて、本当に良かった」
「ありがとう」
「え?」
「産んでくれて、ありがとう」
「ああ。こちらこそ、生まれてきてくれて、ありがとう」
「良かった、お父さんとお母さんの子供で」
「僕も優のお父さんで良かった。勿論、お母さんもそう思っている」
「うん!」
「でもな、優」
「何?」
「心して聞いて欲しい」
「ワカッタ」
「お母さんは」
「うん。お母さんは?」
「想像妊娠だったんだ」
「・・・ん?想像妊娠って、何?」
「子供が出来たって、勝手に思い込んで、子供が出来ていないのに、子供が出来たかのようにツワリが起きて、お腹が膨らんでゆく、現象のことだ」
「ん?おとうさんだってそれ変だよ。だって私は、ここにいるよ?」
「僕は、医者にそのことを告げられた時に頭が真っ白になった。彼女になんて言えばいいんだ?分からなかった。だってすごく嬉しそうに、だってすごく笑って、いたから。だから僕はずっとウソをついた。お医者さんにも協力してもらって、人生最大のウソをついた」
「おとうさん。おかしいこと言ってるの、ワカッテル?」
「はは。そうだよな。そうなんだ。おかしなこと言っている。そう。おかしいんだ。それは君が生まれる8ヶ月前のことだ。その日、いつものようにウソの定期検診をしている時だ。驚くべきことに、エコーに、子供のいないはずのお母さんのお腹の中に、君が映しだされた。今までは他人の子供の映像を流して誤魔化していたんだ。あらかじめ録画しておいた映像を流して、それに合わせてカメラを動かして、まるで子供がいるかのように演じていたんだ。でもその日は主治医が間違って、お母さんのお腹の中を直接映してしまった。でも君は、そこに、存在、していた。僕らが気付かないだけで、初めからそこに存在していたかのようにお母さんの中で胎動していた。でも初めに何度も何度も検査して確認したんだ。確かに想像妊娠だった。でも君は、“いた”んだ。実際に、そこに、君が、いた」
「おとうさん。それ変だよ?」
「確かにおかしなお話だ」
「ワカッタ。物語でしょ?」
「優、これは本当のことなんだよ」
「え?」
「本当のことなんだ。これを知っているのは主治医と僕と、今、君だけだ」
「本当なの?」
「本当だ」
「じゃ、私は、何処から、来たの?」
「それは分からない。でも、事実3ヵ月後に君は生まれ、僕らの娘になった。それも、顔なんか僕そっくりだ。こんな自分に似て、ホント、将来が不安になるぐらいソックリだ」
「私はお父さんとお母さんの子供じゃ、ないの?」
「何を言ってる!君は、何処からやってこようが僕らの娘だ!」
「でも、私、変だよ」
「僕は考えたんだ」
「何を?」
「この子は、神様が僕らに授けてくれた、天使じゃないかって」
「天使?」
「天使のまなざしを持った、神様の子供じゃないかって」
「神さまの、子供?」
「君は、とても素敵だ。お母さんと一緒で、色々なことを感じることが出来る。楽しむことが出来る。君は瞬間瞬間を生きる、魂だ。君の笑顔は僕らを幸せにしてくれる。君のまなざしは世界の希望を見ている。喜びも悲しみも怒りも優しさも、優、君を形作る素敵な要素だ。君は君の思うがままに生きるんだ。どんなことがあっても、僕が君を肯定してやる」
「私は、ちゃんと、生きてるの?」
「ああ。そうだよ。君は、生きている」

そう言って彼は優しく、強く、娘を抱きしめた。

「僕は君に出会えて、本当に良かった」
「私も、お父さんとお母さんに出会えて、本当に良かった」
「ありがとう」
「ううん。ありがとう」
「また、会おう」
「うん。また会おうね」

そうしてそのまま彼は死んだ。
娘を抱きしめる力だけを残して。
彼女はそれに気付かず、微笑みと涙で父親を抱きしめていた。

秋だった。
空は高く、蒼く、金木犀の香りがした。





そうして僕らの物語は進んでゆく。


なにはさておき、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-27 19:38 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

妄想羊

始まりは、やまねこ一座という児童劇ミュージカルをやっている劇団の公演が終わって、皆で食事をしている時だった。なんだか妄想の話になり、それぞれが、それぞれの妄想を語り始めた時に、黒田玲兎君が「あっ俺、妄想収集家やるよ」と言ったのがキッカケだ。その時その場にいて話していた、藤田祐子さんも一緒に僕らは二人芝居をやることになった。

んで愛川が脚本を書くことに。

そして皆に言う。「二人で妄想収集家の話をするんだ」すると様々な人に似たようなことを言われる。

「妄想収集少女?」

どうやら藤田祐子さんのほうが妄想のイメージがあるらしい。ワカルけど。ま、『妄想収集少女』は次回作としても、とにかくそういうワケで『妄想収集家』を望む男子と『妄想少女』の女子の二人による、移動する羊コラボレーション作品『妄想収集家』をやることに、あいなりました。

ユニット名は妄想羊。

そんな二人による物語の始まりはこうだ。


その少年は小さい頃から、この世界と自分について、何か他の人が感じる感覚とは違う、“違和感”を感じていた。

『この世界は、ひょっとしたら自分が、守っているの、では、ないのか?』

自分の中に、何か異世界が果てしなく広がっていて、そこにはたくさんの神々や、天使や、悪魔や、使徒が、棲んでいる。そしてそいつらがこの世界に出たがっている。でも自分という器がそいつらを抑えることによって、そいつらの、この世界への侵攻を防いでいるのだ。
神々なら良いじゃないのか?
いや、この世界にとって神も悪魔もあまりたいした差はないのかもしれない。
この世界との圧倒的、“種の起源の相違”という意味において。

我々とは、明らかに属性が違うのだ。

少年は一度この“違和感”を母親と父親に話したことがあった。彼が5歳の頃だ。まるで、子供らしくないその発言と、あまりに確信に満ちた純粋な瞳を見た時に、両親はなんだか“怖く”なった。
少年はもともと、生まれたときから、少し変だったのだ。この世に生まれた瞬間に、最初に彼は大きく世界に叫んだだけで、彼は泣き叫ぶこともなく『笑っていた』のだ。まるで、この世に生まれたことを楽しんでいるかのように。
医者も看護師も母親も立ち会っていた父親も、なんだか少し背筋がゾッとした。
無邪気に笑う赤ん坊を見て、大人達は恐怖したのだ。
でも、彼の笑顔は、まるで天使のように可愛かったのに。
だから、両親にとっては彼は、この世界の住人とは少し違って見えたのかもしれない。

「和人、お前は誰からそんなウソを教え込まれた?母さん、なんか変なものでも読ませ聞かせたのか?」
「私は何も。公園で遊んでいる時に、誰かに吹き込まれたのね」

「ううん。かずくんがじぶんでおもうんだよ」

少年はその時の両親の歪んだ顔を今でもハッキリと覚えている。

それから少年はそのことを口に出すことはなくなった。彼は頭が良かった。勘が働いた。人の心の在り様を知ることが出来た。彼は人より、世界の真理みたいなものに敏感だったのだ。
その彼が、ある人物に会ったのは小学生に上がって4年目のことだった。彼にとってこの歳は、いくつかの出会いの歳であり、変化の歳であり、長い長い旅の始まりになった。

それはなんだか、奇妙な出会いだった。その日は空高く、蒼が透きとおるほどの青空な、秋の日のことだった。

少年が住むその街には大きな川が流れている。

彼はよくその川のほとりに座り、学校の帰りに飽きずに何時間も、ひたすら川の流れを見ていた。
川辺りに大きな樹があって、よくその下に座り、ひたすら川の流れを見ていたのだ。
彼の街はインドの地方都市と姉妹都市だった。その姉妹都市から送られた樹木だった。
なんだか彼はその樹の下がとても落ち着いたのだ。

彼はその日、いつものようにその樹の下で川面を眺めていた。すると川上から一艘のカヌーボートに乗って一人の、長い白髪を後ろに束ねた老人が現れた。

カヌーボート?
老人?

彼は小さい頃からこの街で川を見続けていたが、こんなことは初めてだった。その老人は少年を見つけると一瞬ハッとし、嬉しそうに笑顔で近づいてきた。そして少年の前の岸につけると、少年に話しかけてきた。

「やあ少年」
「コンニチハ」
「珍しい少年に出会った」
「珍しい?」
「驚きだ。だから生きているのはヤメラレナイ」
「珍しくないよ」
「あっイヤこれは失敬」
「でも僕も、珍しいものに出会ったよ」
「ほう、誰だ?」
「おじいさん」
「はは。面白い」
「何してるの?」
「世界中の川を下ってる」
「色々な国の川を?」
「そうだよ。川を下るんだ。あらゆる国のあらゆる川を下るんだ。すると、実に様々なものが見えてくる。大河。小川。ヘドロの川。枯れた川。清流。昔、川だった道。下りながら、そこから人々の営みが見える。その国の歴史と現実が見える。この世界が見えてくる。そして私はいつしか、この世界に繋がっている、何か違う世界、異世界とでも言うのだろうか?それが視えるようになった」
「イセカイ?」
「いやあれは神と呼ばれる人々の世界なのかもしれない」
「それとも悪魔たちの世界なのかな?」
「ほう。お前の口からそれが出るのか」
「なんとなく、だよ」
「あるいは…。視えるのか?」
「ううん。感じるんだ」
「やはり面白い」
「きっと何処かにあるんだよ」
「そうなのかもしれない。しかし実はある仮説が頭を離れないんだ。ある時、ふと思ったのだ」
「何を思ったの?」
「あれはひょっとしたら、未来の我々かもしれない」
「未来の僕ら」
「未来の我々の世界から届く、ビジョンなのじゃないのか?」
「僕らは神様になる」
「もしくは悪魔にね」
「つまりそれは進化?」
「いや、案外退化なのかもしれない」
「僕の中に未来がいる」
「まあ、もっとも私の妄想かもしれないが、な。お前も視てみるか?」
「視ることが出来るの?」
「ああ。出来る」
「視たい!」
「いいだろう。瞳を閉じろ」
「うん!」

そうして嬉しそうに少年は瞳を閉じた。老人はそっと自分の瞳を、右手の人差し指と中指で触れた後、その指先を少年の瞳にゆっくりと近づけ、軽く触れた。

その瞬間、青空いっぱいに映像が映し出された。それはまるで、地球がみる夢。

たくさんの樹木や花が、空から降ってくる。
その中を様々な神々や天使や悪魔や使徒が空を翔ぶ。
その中に、まるで普通の人間の姿をした男が、空を歩いていた。

そう翔ぶのでなく、歩いていたのだ。

まるで歩くことこそ生きることだ、と言わんばかりに。まわりの神々や天使や悪魔や使徒は彼に気づいた。そしてゆっくりと彼の前に道ができた。彼はあたりを見渡し、微笑み、瞳を閉じた。彼のまわりから離れたすべての未来人が、その瞬間に彼に襲いかかった。

一瞬にして彼は塊になった。

神々や天使や悪魔や使徒の球体。

しかし球体から光が漏れる。その光の光量は膨らみ、そして弾けた。バラバラと大地に落ちる未来人。その中にいた彼は、上を見上げていた。
その先に一人、彼と同じような普通の人間の、髪の長い男がいた。

『久しぶりだな』

彼はその長髪に言った。長髪の男は答えた。

『ああ、本当に久しぶりだ』

そして長髪は、ゆっくりと両手を広げた。次の瞬間、雨が降ってきた。紅の、まるで太陽の涙のような雨が。

「雨が降ってきたな」

老人は空を見上げて言った。少年はゆっくりと瞳を開けた。そして呟いた。

「ねえ」
「なんだ?」
「僕だ。僕が、いた」
「そうだ」
「空を歩いていた」
「初めてお前を見た時、つい笑ってしまった」
「出会ったから?」
「人生はこれだからやめられない」
「ねぇ、これは本当に未来の出来事なの?」
「さあな、分からない。ただ、これだけは言えるかもしれない。お前は出逢い。そしてまた出逢う。この私に出逢ったように」

少年は頷き。そして上を見上げた。

雨が降っている。

未来から雨が降っている。


ちなみに「妄想収集家」はこんな壮大な話ではありません。
なら何故書いたんだって話ですが、それは観てからのお楽しみ。


そうして僕らの物語は進んでゆく。


なにはさておき、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-26 22:42 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

10月30日土曜日に公演をやります。
演目は「妄想収集家」
上野キャンディハウスにて、上演をいたします。

短編企画。
ハロウィンパーティー。

ライブハウス&ダイニングバー Candy House
ハロウィーンパーティー


★会場
上野キャンディハウス


★タイムテーブル
18時30分オープン

19時
1作品目
中野和哉 (劇団だるい)


19時40分
2作品目
伊藤敬市


20時20分
3作品目
丸房君子 (民芸音読研究会)


21時
移動する羊
作・演出  愛川 武博

タイトル  『妄想収集家』

出演者   黒田玲兎  藤田祐子


上演時間は多少前後する場合があります。ご了承ください。

チケット
Charge+2ドリンク+フード: 3000円

会場
ライブハウス&ダイニングバー Candy House
東京都台東区上野2-11-12
上野TKSビル6F

地図/詳細http://kacy.web.fc2.com/index.html
千代田線湯島駅徒歩3分/
JR御徒町駅徒歩5分

HPhttp://www.candyone.jp/


03-5818-3563

またいつもの如く、作品に関することや、作品作りの稽古場の様子を羊ブログに書くので、よろしければ読んでください。
読まなくても、楽しめるけれど、読めばいっそう楽しめると思います。

羊ブログのカテゴリーの中で「妄想収集家」を開いていただければ、書いた内容をまとめて見ることができまする。
作品のエッセンスがいっぱいです。
観て読むもよし。
読んで観るもよし。
読んで想像だけするもよし。

よろしければ是非いらしてくださいませ。

観劇希望の方はloveriver@di.pdx.ne.jpまで『観劇希望』とタイトルに書いてメールください。

軽食と席の準備があるので、早めに連絡ください。
by moving_sheep | 2010-10-25 16:24 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

その時、その人の無意識がリズムをとり、唇が歌の歌詞をなぞる。まるで子供のようにワクワクしている姿を見た瞬間に、僕は翼のない天使の存在を知り、魂がふるえるのを感じた。

なんて可愛いのだろう。

なんて無邪気なのだろう。

僕はこの笑顔を知らない。

無意識の天使は、最大級の笑顔で僕の心に幸せを届けてくれたのだ。

それは恋とか愛とかじゃ語れない、魂の反応だった。
僕は出逢い、また出逢い、そしてまた出逢ったのだ。

でもこれを一般的には恋というのだろうか?もしそういう言葉が適切ならば、僕は恋をしたのだな。それとも愛の領域に属する気持ちなのだろうか?確かにイトオシイと思うから、それはそれで正しいのかもしれない。ただ、この気持ちの存在は、僕の中には今までなかった。つまり僕は初めて出逢ったのだ。

だから、この気持ちの名前を僕は知らない。

僕はこの気持ちの名前を探さなくてはならない。

それは長い長い旅になるかもしれない。
果てしない旅になるかもしれない。
それとも明日、ひょいと僕は探し出せるかもしれない。
明日、僕はこの気持の名前を知るかもしれない。

言葉はいつもどこにも届かずどんどんウソになってゆく。
言葉がなければ約束なんてしなくてすむのに。
期待なんてしなくてすむのに。
でも僕は言葉にしなければならない。
言葉を探さなくてはならない。
この気持の名前を探さなくてはならない。
旅立たなければならない。

そして僕はその夜に夢を見る。

僕は暗闇の中にいて、遠くの方から音が聞こえる。
何だろうあの音は、まるで静かな音楽。
僕はもっとその音が聞きたくて、ゆっくりとそこへむかって進んでいく。
ひたすらに、ひたすらに目指し続ける。
ゆっくりと、ゆっくりとそこにむかう。
暗闇の中でその音だけをたよりに、その場所をめざしてゆく。
するとさ。

少しずつまわりが明るくなってくるんだ。

光が強くさしてくるんだ。

そうだあの音はあの光の先端から聞こえてくる。

光が強くなればなるほど音は大きくなってくる。
ゆるやかによせてはかえすやさしいリズム。
あれを知っている。
僕は知っている。
あれは。そうだ。あれは。

波だ。

目をさましてなぜか泣いてしまったあの時の波だ。
波だ。
涙。
あふれでる涙。

探しに行こう。

僕の中に生まれた、この気持ちの名前を探しに行こう。

きっとみつかる。
きっと探せる。
そしてそれをみつけた瞬間に、僕は大きな声でその名前を叫ぶんだ。
行こう。
大丈夫。
僕は大丈夫。

だって僕は。

ささやかな祈り。

そして目が覚めて、僕は僕の意味を知る。

愛川です。


公演やります!
by moving_sheep | 2010-10-25 16:00 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)

朝から病院に行き、病院を移動し、稽古を休み、稽古に遅れ、そしてやっと僕は知ることが出来たのです。

検査結果が出ました。

More
by moving_sheep | 2010-10-24 18:45 | takeke | Trackback | Comments(2)