夕方、図書館に寄った。借りていた本を返却して、次に借りる本を探す。久しぶりに館内を歩きながら様々な本を眺めながら思ったことは、「思っている以上に気心が、損なわれているのだな」だった。
まるで空に浮かんでは消える物語を、深い底から見上げているかのような感覚だったから。
階段を登る。
空に近づく。
たくさんの世界の欠片が視える。
世界の一部である己も見える。
物語がある。本がある。
そうして周りを見渡すと、僕と同じようにひたすら『本』を探している少女に会った。
中学生か、高校生か?
白に鉛筆でスケッチをしたかのような絵が描かれてあるTシャツと、紺のパンツ。街の風景に、唐草模様のような線が袖に向かって広がっていて、どこかファンタジー世界を思わせた。
彼女は長い髪をポニーテールにして、尻尾を揺らしながら小説コーナーを歩いている。
ひたすらに本を探している二人なので、よくすれ違うし、おそらく相手も意識の端に僕が居るのだろうと感じる。しかし彼女はなかなか本を決めきれない。数十分もあれば、さすがに僕の手には数冊が収まっている。眺め、探し、歩きながら、そうして不思議な心持ちになった。
「まるで仲間に出逢えたみたいだ。まるで知らない人だけど」
いつしか空を歩いているかのように、足取りが軽いことに気がついた。
時計を確認する。
時間だ。
立ち読みをしている彼女を横目に見ながら、自動貸出機へと向かい、僕は五冊を借りて図書館を後にした。
彼女はまだ探していた。楽しそうに。
僕は湿った風が吹く、暗雲の下を弾むようにして帰る。
空の欠片を持っているかのような心持ちで。
きょう、あった。
ささやかに、あった。
であい。
愛川武博