移動する羊 是楽日

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移動する羊による稽古場の一つであり、呟きの場であり、表現の場所 物語・小説・詩・遊び

『文豪遊』~2025年5月28日(水):目先想創


文豪たちの短いエピソードを幾つか読んでいた。それぞれ面白い逸話がある。知っている事も知らない事もあって、そこでふと気がついたのだけど、一昔前の文豪たちは、それなりの数の人が結核をやっている。
梶井基次郎なんて「肺病になりたい。肺病にならないと、いい文学は書けない」的なことを言っていたはずだ。理由は文豪たちがこぞって結核になっているから。実際のちのち結核になって、他界されてから人気になった作家だ。
薬が出来て、治して書き続けた人もいる。でも一応結核にはなっている。のだ。
そこでハタと気がついた。「そういえば僕も結核に罹ったな」と。
会社の健康診断で『胸に影があるから再検査』と告げられていたのだけど、咳も出ないし体調も悪くないので「大丈夫、大丈夫、平気、平気」と一年近く放っておいたのだ。
しかし高熱の出る風邪をひき、それがキッカケで胸の痛みが増してきたので、しぶしぶ病院へ行ったら結核だったと判明した。とはいえ「咳もないし、このまま薬で治しましょう」と言われて一年弱くらいの投薬で治った。僕はそのことを思い出して考えたワケですよ。
「ひょっとしたらあのまま結核が酷くなってしまったら、あるいは僕は文豪になっていたのかもしれない…治したことでむしろ道が閉ざされたのだ……くぅ」
いえ、25歳前後の僕は、戯曲を数本書いたくらいで、小説なんてものは小学生以来、全然書いていませんでしたけどね……。
「ひょっとしたら結核のおかげで小説をまた書き始め、今ごろは文豪になっていたかもしれないぜ」なんて考える。
「おいおい君はそれを本気で考えて口にしているのかい?」
「ああ思っているね。なんだって僕には結核になる才能があるのだ。つまり名文を書ける才能もあるに違いない」
「いやいやまったくもって荒唐無稽だ。そんなこと云ったら文士文豪が一昔前には溢れていたことになる。溢れていたかい?いや溢れてなどいない。確かに君は結核になる才能があった。しかし同時にろくでなしの才能もあるじゃないか。それもとびっきりの。とはいえ仮に百歩譲ってろくでなしも文豪の才の一つだとしよう。だが君には加えてぐうたらの才能もあるときている。それも極上のだ。こりゃ文豪までの道程は一筋縄じゃあいかないぜ」
そこまで云われて(誰に…?)僕は絞り出すようにして返した。
「君ソレは云い過ぎってものだよ。たしかに真実だけれどもさぁ……」
涙が出ていたのは云うまでもない。
ああ、僕は泣きつかれたので、このまま酒でも浴びて就眠し、せめて盛徳大業な夢でもみようじゃないか。
おやすみなさい。


愛川武博


by moving_sheep | 2025-05-28 20:52 | 目先そうそう | Trackback