移動する羊 是楽日

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移動する羊による稽古場の一つであり、呟きの場であり、表現の場所 物語・小説・詩・遊び

物語 「昼を生きる物語」 作:愛川武博


彼が眠りにつく頃に、彼女はゆっくり目を覚ましました。
彼女はホシミと呼ばれていました。
星に見るで星見。
彼女は双子の兄がいました。
ヨシキという名前です。
本当は義之なのですがみんな縮めてヨシキと呼んでいました。
彼女は朝の8時から夜の20時まで起きていますがヨシキはその逆で夜の20時から朝の8時まで起きているのです。
いつの頃からか彼女は夜をヨシキは昼間をきっかり二つに分けて眠るようになりました。
決して二人は起きているお互いを見ることが出来ませんでした。
どんなに起きていようと頑張っても、時間になればまるで魔法にかけられたように、眠りについてしまうのです。
両親は医者に診せたのですが原因は分からずじまいでした。
ホシミはあるときヨシキに手紙を書いてみようと思いました。
夜を生きる兄に何か、自分の何かを伝えたいと思いました。
それにどうして自分は昼間で兄が夜しか起きてられないんだろうと思いました。
不公平だと思ったのです。
夜は普通の生活が出来ないと思ったからです。
確かにその通りでした。
ヨシキには友達はいませんでした。
だからせめて私だけはヨシキのことを忘れていないんだということを伝えたかったのでした。

『おげんきですか?ワタシはげんきです。よるしかおきていられないなんてヨシキだけフコウヘイだとおもう。もしこれがカミサマのしたことなら、カミサマはなんてザンコクなんだろう。よるはどうですか?ひとりぼっちだもんね。ワタシはいくらがんばってもねむってしまいます。キョウこそはとおもいながら、いつもムリなんだ。ヨシキもおなじなんだよね。どうして、いつのころからこんなことになったのだろう?パパとママにわからないようにこのテガミはマクラのしたにいれときます。みつけられるといいけど。またかくね。よかったらヘンジをください。ホシミより』

 
その夜は、雨の降らない雷が光っていました。
朝起きて、ホシミは横に寝ているヨシキを見て寝ているのを確認すると、自分の枕の下を探しました。
すると、手紙がおいてありました。
ホシミはひと呼吸して、二つ折りになっている手紙を読みました。

『おテガミありがとう。ボクはげんきだよ。すごくいいあんだね、テガミをかくなんて。きょういえにあるおじいさんがきたんだ。ぼくたちがこんなふうに、よるとひるとにわかれて、いきているのにはイミがあるんだっていっていました。すぐおじいさんはかえったのだけれど、ぼくはよるのボウケンをすることにしました。そうなのです、ひとりでよるのそとにでるのです。だからパパとママがシンパイするといけないのでナイショにしていてください。はじめてのよるのそとはカミナリがピカピカとひかっていてとてもキレイでした。ぼくはマイゴにならないように、いえのちかくをぐるっといっしゅうしただけですが、とてもドキドキしました。そうしたらしろいネコがいてぼくに、はなしかけてくるんだ。「おやはじめてのよるデビューかい」ビックリでしょ。「こんなひは、ネコだってしゃべるもんなんだぜ、おぼえときな」そういっていなくなちゃったんだ。あめがふらないカミナリだけのひはフシギナことがおこるんだって、きづいたよ。いえにかえってきてうれしくてベッドのとこであばれてたら、このテガミをみつけたんだ。だからぼくのモノガタリをテガミにかいてみたんだ。ホシミのモノガタリもきかせてね。またテガミかきます。ヨシキより』

 ホシミはこの手紙を読んで嬉しくなりました。
今まで、どんなにゆすっても起きなかったヨシキと会話が出来ているからです。
猫は雨の降らない雷の夜には、喋るものなんだってホシミは初めて知りました。
それからホシミとヨシキの交換手紙は毎日続きました。
ホシミは幼稚園に通っていました。
そこでのことを手紙に書きました。
ヨシキは夜の散歩が日課になりました。
そしてホシミからチューリップ公園の場所や、空き地の広場のことを教えてもらいました。
教えてもらった場所はヨシキの散歩コースになったりしました。
そんな日々が続いていたある日、ホシミは不思議な人に出会いました。
その日、おつかいを頼まれたホシミはスーパーから帰るときに、チューリップ公園を通ったときでした。
一人の若い女性がギターを片手に歌を歌っていたのでした。
お客さんは誰もいなくて、一人で歌っているその女性にホシミは興味を持ちました。
なんて素敵な声なんだろう?
ホシミはフラフラとその女性の前まで行って歌を聴いていました。
一曲歌い終わって拍手をするホシミに、その女の人は話しかけてきました。
「ホシミちゃんだよね?」
「え?どうして知っているの?」
「ずっと昔から知っているわ。あなたが三歳の頃にヨシキ君と昼と夜とに別れて生きるようになってから」
「三歳の頃なの?いつの頃なんて誰も教えてくれなかったよ。ずっと昔からそうだったかのように私たち二人は別々なんだと思っていたのに」
「覚えてないのもむりはないわ」
「どうして私たちは別々になったの?」
「選ばれたのです」
「誰に?」
「世界に」
「世界って何?」
「世界はこの世を大きく包み込んでいる秩序です」
「チツジョ?」
「狂わないようにネジをまく者です」
「何処にいるの?」
「それはあなた達二人のことだったりするの」
「私たちがネジを巻くの?」
「そう、世界はあなた達です。そして同時に世界は誰でもない大きな何かだったりします」
「大きな何か?」
「誰も正体は分からないのです。でも世界はあなた達二人を選んだ。だから世界はあなた達そのもの。ホシミちゃんの音楽が世界を支えるの」
「音楽?わたしの音楽って何もないよ」
「あなたが昼を生きることが、もうすでに音楽なの。そしていつか自分でも音楽を作ることになるわ。歌は好き?」
「大好きだよ」
「それが大切よ」
「だからお姉さんの歌を聴いてフラフラと聞きにきちゃった。すごくいいと思う」
「ありがとう」
「もう一曲歌って」
「いいわよ。それじゃホシミちゃんとヨシキ君の二人に捧げる歌を歌うわ」
そういうと、彼女はギターを弾き始めました。そして澄んだ声が響いてきました。

『生まれその時に生まれた歌を歌おう・静かに始まった世界が回る音・ふと目が覚めたたらもう君は眠っていたね・背中合わせでずっと生きてきたから分かるんだ・君は大切な大切な僕の半身・このまま何処までも行こう・このまま冒険をしに行こう・どんなところだって良いさ・どんなところだって行けるさ・きっとこの想いのまま』

ホシミは初めて聞くこの歌を知っていました。
遠い昔に聞いたことがあるのです。
それは三歳の頃の嵐の夜に二人が初めて別々の睡眠をした時に、どこからか聞こえてきた歌でした。
ホシミはいつしか一緒に歌っていました。

『目覚めその時に目覚めた歌を歌おう・激しく嵐がふきあれるこの世の中・優しさだけをもって立ち向った・いつか倒れるかもしれないって思っていたんだ・でも僕らは支えあっているから・このまま何処までも行こう・このまま冒険をしに行こう・どんなところだって良いさ・どんなところだって行けるさ・きっとこの強さのまま』

チューリップ公園に二人の歌が響きわたりました。
その夜、ホシミはヨシキに手紙を書きました。

『キョウ、チューリップこうえんでうたをうたうおねえさんにあいました。ワタシたちのことをしっていたよ。なぜだかワカラナイけどしっていました。そしていっしょにうたいました。きっとあれは、とおいむかしにきいたうた。なぜかうたえました。ワタシはオンガクとともにひるのものがたりをいきようとおもいます。ヨシキとはあえないけど、おたがいのイキルせいかつをテガミでつたえられるといいね。またヨシキのよるのモノガタリをきかせてください。ホシミより』

『おテガミ、ありがとう。よるのモノガタリか、ステキだね。ボクのボウケンがモノガタリなんだね。いつかホシミのウタをきいてみたいです。ひるのモノガタリをまたおしえてください。ヨシキより』

こうしてホシミの本当の意味での、昼を生きる物語は始まりました。
それは音楽と共にあるのです。
彼女が口ずさむ音が世界のネジを巻くのです。




Fin


by moving_sheep | 2023-12-27 00:00 | 物語/目先物語 | Trackback