2024年 01月 13日
『まるで呼ばれたかのように』~2024年1月13日(土):目先想創
雨降らないな~。雪降らないな~。何度かそう思いながら窓の外を見る。曇ってはいる。しかし雨や雪の気配をまるで感じない。「まあ、いいか」と、とりあえず家の用事を片づけていた10分後、雪のカケラが混じった雨が降ってきた。
降ると雨はあっという間に激しくなった。
僕はふと、思った。
「散歩も兼ねて買いへ行こう。」
元々、雨が降る前には買い物へ行こうとは思っていた。だから天気が気になっていた。しかし気持ちのタイミングが合わず、家事をしていたのだ。とはいえ自分にツッコむ。
「え?こんな冷たい雨の中?どうして?」
ちょっと迷いながらも、携帯にメモしていた〈買物一覧〉を見た。
「うーんなるほど。すぐに必要なのは納豆と小葱くらいか。いや必要かな?なくても困らないと言われれば困らない。だから行かなくてもいいか。いいけど。うーん……だけど………よし買いに行くか。」
僕は家を出た。冷たい雨の中、傘をさして歩く。Tシャツにパーカーという薄着で。近所だし。歩くと暖かくなるし。あと不思議と雪が降るくらいの方が暖かいと感じる。
歩いていると楽しくなってきた。雨の散歩もいいものです。しかし途中で思う。
「やっぱり買い物行かなくてもいいんじゃない?」
雨がイヤだからという訳じゃなく、必要性を感じる度合いがどんどん減っていたから。でも歩く。散歩自体は楽しいのだ。
そうこうしているうちに店に着いた。何となく商品を見てまわる。そこにある納豆と小葱を買って帰っても良かったのだけれど、魔が差した。
「うん、もっと先の店まで行ってみるか。」
ええ、ええ、行きましたよ。そしてそこで半額のチクワを見つけたことをキッカケに、今日明日で観ようと思っていたNetflix鑑賞のための食材と、お酒を買ってしまいましたと、さ。
「やってしまった、買い過ぎた。何だか余計なものまで買ってない?」
結構重くなったエコバッグを左肩にかけ、やれやれと僕は開いた店のドアから外へ出ると、家の方向である右側へ向かって歩きだし、傘を開こうとした。その時に声が左側の方から響いた。
『大丈夫ですか?』
見ると、店員さんがダウンを着た小さなご老人へ心配そうに話しかけていた。僕は動きが止まる。酔っぱらっているのだろうか、ちょっとふらついていたので、僕も心配になって様子をしばらく見ていた。しかし大丈夫そうにこちらへ歩いてくるので「大丈夫そうだね」と様子そのままに思い、帰ろうとした時のことである。ふと、二人の背後にとめてあった自転車の、反射板が見える程度の後輪が目に入った。違和感を覚える。いや正確には既視感だ。
「僕は、この自転車を、知っている……。」
あるいは盗まれた自転車かもしれないと思った僕は、盗まれたと分かった日から、何度も歩きながらとめてある自転車を確認してきたクセで「どうせ違うだろうな」と思いながらも、後輪の後ろしか見えない自転車へと歩み寄った。
瞬間、キーホルダーのついた鍵が刺さっているのが見えた。
身に覚えがある、くら寿司のガチャポン景品のマスコット。
「……僕の、盗まれた自転車だ。」
あまりに久しぶりの再会で、信じられずに2、3回周りを見渡してしまった。ちょっと前には別なおじいさんが傘を持って立っている。見渡している僕を何度か見て、そのまま傘をさして消えてしまった。
「怪しい。彼が犯人だろうか?確かにちょっと挙動不審だった。いや、あまりに驚いて三度見、四度見している僕を見て、むしろヤバイ奴だと思ったのかもしれない。あるいは店員に心配された老人が犯人なのかも。もしくは店で買い物をしている誰かか?ひょっとしたら、しばらく前から、あったのかもしれない。あったとしても、前に来店したときはなかったから、少なくともそれ以降だ。いつから…?いや…いい。もう、いい。たとえ近くの誰かが犯人だとしても、それはもう、いいじゃないか。返ってきたのだ。だって返ってきたのだ。それでいい。おそらく自転車は何人もの犯人に盗られたに違いない。鍵のついた自転車は、三週間以上、何人もの手を経由して、ここまでやって来たのだと、思う。だから、いいのだ。」
いいのだ。返ってきたのだから。ちゃんと帰ってきたのだから、いいのだ。
そうして僕は、いつものように買い物袋を前カゴに入れて、雨の中を、傘をさしながら自転車を押して帰路についた。
「おかえり」
心の中でそう呟きながら。
僕はきっと呼ばれたのだ。
もう一度、出逢える瞬間の、その場所に。
きっと。
おかえりなさい。もう二度と、自転車の鍵を外し忘れることはしない。しっかりと鍵をかけるよ。必ず。
必ず。
愛川武博
by moving_sheep
| 2024-01-13 22:49
| 目先そうそう
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