『我ら蟲なり』~2023年6月30日(金):目先想創
あまりの暑さに真夜中の3時に目が覚めた。
熱帯夜。
しょうがないので、読みかけの司馬遼太郎を読み始める。
面白い。
読ませる力があるのは、人間を描くのが上手いからなのだろうなと思う。
ただ描くだけじゃなく、大事なところだけ描いて、あとはしっかり読者に想像させる空白を残しているところだと、思う。
つまりまさに人間感。
ほら、僕らも、対峙した人へ「どこか自分の知らない裾野が広がっているのだろう」と思うと、その平野なのか荒野なのか山野なのかは分からないけれど確かにあるのであろう世界を、観たくて視たくて聴きたくて興味を持つ、人、いるじゃない。
そんな感じ。
居るな~って。
そんなこんなで、結局そのまま睡眠不足で出かけた僕は今、すごく眠くて眠くて睡眠がどれほど大切かを実感しています。
最近、夜更かし気味だったし。
眠いだけで、寝落ちるってことはないけれど、ただでさえ無い集中力が更に無くなる。
今日の僕はネムケ虫。
睡眠を……。
眠る。
と言えば。
大谷選手はたくさん眠るらしい。
そりゃあれだけ活動していたら、そうなるよね。
パフォーマンスを上げるため彼には必要らしい。
アスリートってすごいね。
書くもまさにそうだよね。
書く描くもアスリート的なとこある。
e-sportsの選手、ゲームするだけなのに、ゲームに耐えられるようにトレーニングして体全部鍛えスタミナつけるって知った時は(数年前)、驚いたけれど理解した。
動く、大事。
そう思って本当に、ホントにほんのちょびっと、ここ二日、一昨日と昨日、少しずつ体を動かしたりストレッチしたり筋トレしたりしてみたら、体重が落ちた。
2㎏。
わぁ。
食事ダイエットだけじゃ、やっぱり難しいのだ。
前回いけたから、ちょっとサボっていた。
睡眠。
運動。
食事。
ああ、大切なことはだいたい三つか四つ。
《創る》のストレッチ、あるいは筋トレ、もしくはジョギング。
「動き出さないんだ、俺の頭の中にいるはずの虫が」
僕はその言葉を聞いて、ふとヤマビルの姿を思い出した。
しゃくとり虫のような動きで地面から這い上がってきて、肌にかみつき、血を吸う奴ら。
しかしヒルは虫ではない。
もっとも漢字が伝わってきた古代中国では、『蟲』はもともと人間を含めた生きとし生きるもの全てを表す文字であり、概念であったらしい。
蟲。
虫。
チュウ。
だから人類を〈裸蟲〉と表し。
獣類を〈毛蟲〉
鳥類を〈羽蟲〉
魚類や爬虫類を〈鱗蟲〉
貝ならば〈介蟲〉と表していた、という。
その考え方で言えば、ヤマビルもまさに蟲なのだろう。
彼の頭の中に居る『何か』もまた、あるいは『蟲』なのかもしれない。
「俺はココに棲んでいる虫に、謝意と敬意を持っているんだ。そして望んでいる。動き出してくれることを」
こめかみに左手の中指を当て、まるでドアをノックするみたいにコツコツと叩きながら言う彼に、僕は小さく何度も頷きながら、頭の中で流れた映像を観ていた。
妙義山へ登った時のこと。
ヤマビルに襲われ、そのヒルが、まるで服を食い破って中に入ってくるように見えた僕が、あまりの恐怖にズボンを凄い勢いでおろしてしまい、パンツ一枚のままむしろヒルの格好の餌食になった姿を。
慌てふためき、叫び、逃げるように……いや山をまさに『逃げた』あの日の己。
不思議なことに、夢を見ているかのような、俯瞰して己自身を観ている映像だ。
「………僕はむしろ居なくなることを望んでいるってのに……」
「ん?んん?……んんんんん……?」
ずっとンンンンと言っている彼に「いや、ごめん、こっちのハナシ、ホント、ごめん、うん、ゴメンごめん御免、ウン」と更に首を縦に小さく振りながら、続けて言った。
「……それで?いや。それは……どういう……ことだい………?」
あえて神妙に。
「ははっ……それは……つまり……そう、つまり………」
まさかの神妙返しだ。
「……つまり……………………」
長いな。
つまり?
「創作虫が死にかけている」
ふぃぅいん。
頭の中で、奇妙な音が鳴った。
音は音楽に成ってゆく。
低く小さくでも倍音のようにどこか高い音も入っている響き、音楽。
ささやき息のように、でも段々と大きく聴こえてくる。
少しずつ加速し拡がり鳴るメロディ。
「………んんんん♪…らららららら♪…らららら♪らららんんふんんららら~♪」
「いや、なに自分でオンガク乗せてんの?」
ツッコむと彼は、真剣な眼差しそのままで言った。
「俺にとっては壮大なハナシだからだ。俺は、俺の中に居る創作虫と共に、世界に作品を遺す人間だからな」
僕は軽く息を吐いた。
真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、ゆっくりと丁寧に伝えた。
「知ってるよ。知ってる。君はそういう人間だ。……解った。君の中の蟲、生き返らせよう」
「そう言ってくれると思ってたよ」
やっと笑顔になった彼に、口角を形だけ小さく上げて応える。
窓の外を見る。
雨が降りそうだった。
この日、僕は、創作虫にまつわる奇妙な物語に足を踏み入れることになった。
はからずも。
蟲、トラウマなのに……。
人生というものには、道が大きく変わる瞬間がある。
それが後々に気づくようなモノだったとしても。
確かに、あるのだ。
愛川武博

