物語 「リオンとキノボリトカゲ」 作:たけけ
リオンは窓を見上げて「ピャッ」と声をあげておどろいた。
黄緑色のトカゲの手足が、ガラスにピタッとはりついていたのだ。
五本指で器用にガラスをつかんでいる。
いったいどこに、つかまるところがあるのだろう?
リオンはそーっと近づいた。
黒と緑の長い尻尾も使っているのかもしれないと思った時だ。
トカゲはギロッと顔をリオンの方にむけてにらむと、すべるように窓の下へニワトリのようなトサカをヒラヒラとさせて移動した。
リオンは悩んだ。
“窓を開けるべきか、開けざるべきか?これはジンセイ最大のセンタクだわ。”
リオンはまよい、10年の人生、もっとも勇気ある決断をすることにした。
「葉っぱトカゲさん、であいましょう!!」
そう言うとリオンは窓のカギを外しソロリソロリと開けた。
その時だ。
ピョヨヨワーン!
「そんな音がホント聞こえてきたの!」とのちのち母親のハルミに言うのだが、その時はいきなり部屋の中に飛びこんできたトカゲを見て、大きな声で叫んでいた。
「キャー!!ピョヨヨワーンってなに?!」
お尻をついてそのまま後ずさりするリオンにむかって、床におりたトカゲはキッと顔を上げるとこう言った。
「初めまして。おいらはキノボリトカゲのヨシヒロっていいます。いご、お見しりおきを」
「トカゲが…しゃべった…」
それを聞いたヨシヒロは、「イケネー」っというような感じで、前足を頭の方にあげると、申し訳なさそうに言った。
「これはおいらとしたことが、スミマセン。今、人間みたいに大きくなりますので。」
「えええ?!大きくなるの!?困るよー!」
ヨシヒロはそんなあわてるリオンを気にもせず、前足を合わせて「エイッキー!」と叫んだ。
リオンは首をふり「やめてやめて。」と後ずさる。
ヨシヒロはむくむくと大きくなる。
手のひら一つ分くらいからグングンと二つ分三つ分になると、「ナリッキー!」と叫んで後ろ足を伸ばしスッと立ち上がった。
「どうです?ははは、大きいでしょ?」
「…小さい」
「えー!?まさかの?!」
「小さいよ。全然小さい。もっと大きくなるかと思ったよ。キタイ外れだよ~。」
ピョーンピーロ!
ヨシヒロは背すじを伸ばし、あまりのショックに手をついた。
もちろんこの音はリオンがのちのち母親にそう聞こえたと言った音だ。
「あ、フツウのトカゲにもどった。」
「ヒドイ…」
「え?」
「これでもシュギョウして、アイ子さんのおまごさんに立派な姿を見せられるようにがんばったのに、ひどい。」
そう言いながらうでを上下に動かす姿は、傷つきくやしがっているというよりも、うで立てふせをしているみたいである。
「アイ子さんって、おばあちゃんのこと?」
「はい。奄美大島でアイ子さんに助けてもらって。あ、おいらのひいひいひいひいひいじいちゃんが、ですけど。恩返しをするのが一族の願い。やっと叶うと思ったのに…」
「そうなんだ。わざわざ奄美から…えーと…どうやって?」
「はい!まずはトラックへ乗りこみ港へ。港からフェリーに乗り鹿児島本土へ。そこから飛行機に乗る人のカバンに入ったのです。しかしまさかの北海道。まちがえたー!危うくこごえ死ぬとこでした。それから…ああ話せば長くなる。つまり持ち前の気合いで、はい、ここまでやってきたしだいであります。」
「それは本当にごくろうさまです。」
「それなのに…それなのに…」
「ごめんね、ごめん。でも、それならどうしておばあちゃんの所に行かないの?おばあちゃんまだ生きてるよ?」
するとヨシヒロはくにゅくにゅと口を動かしグルグルと目を回し、困ったように言った。
「恩返しに行ったみんなはアイ子さんに口々にこう言われるんです。“ハゲー!どっか行かんね。”と。」
「あきらかにイヤがられてるじゃん。」
「いや、まさに。でも恩返しが我が一族の願い。そしたらおまごさんがいると知って。」
「そうか。おばあちゃん、我が道を行く人だからね。本当に助けたのかな?ひいひいひいひいひいおじいさんのかんちがいじゃ…」
「それ以上言ってはなりません。」
「わかった。うん、そうだね。それでどんな恩返しをしてくれるの?」
「食べてください。」
「え?」
「実は我らキノボリトカゲ、ある年月をこえて生きた者は、その体にすごいパワーを宿すと言われています。だからぜひに…」
「やだ。」
「えー!?」
「やでしょ、そんなの。」
「気持ち悪いですか?」
「ちがうよ。あ、うん、気持ち悪いけど。」
また両手をつくヨシヒロである。それを見てリオンは優しく言った。
「きっとおばあちゃんも、だから追い返したんだよ。」
「ん?どういうことです?」
「ねぇ、ヨシヒロ。」
「はい。」
「きっとおばあちゃんはね、あなたのご先祖さまを助けた時に、もうすでにたくさんをもらってると思うんだ。島に共に生きる仲間として。だから今度はあなたが誰かを助けてあげて。そうしたらきっと、おばあちゃんも私も喜ぶ。それが何よりの恩返しだから。」
「そうですか…」
「うん。」
「ならば、やはりあなたにあげたい。」
「え?」
「さっき泣いていましたよね?だから、食べてもらわなくても、できることがあれば。」
「大丈夫だよ。うん。お父さんが居なくなってちょっとさびしいけれど、きっと大丈夫。」
「そうだ!こうしましょう!今日から私がリオンさんのお父さんです!ね。」
「え?やだ。」
「えーそんなー!」
両手をついて落ちこむヨシヒロ。
それを見て笑うリオン。
リオンは言った。
「ありがとう、ヨシヒロ。」
「それはつまり今日からおいらはお父さん…」
「友達。」
「トモ、ダチ。」
リオンはうなずいた。
ヨシヒロもうなずいた。
二人は笑顔になった。
ヨシヒロは右手を出す。
リオンはそっと右手のひとさし指をさしだした。
その指をヨシヒロは優しくギュッとつかんだ。
fin

