引越しぱーちーエピソード3
八人は池袋の駅に着いた。劇団やぶさかの主宰の女性は、池袋でライブを観に行くといって横断歩道を渡ってゆく。青とグレイのレトロな服を現代風に着こなしている。自分に合った服を選ぶセンスに長けた彼女を見送り、彼らは階段をおり改札へと向かった。
いつもより多い人ごみも気にせずに話をしながら歩く七人は、電車の放送を聞いて愕然とした。
「え~たぁだっぃいま~山手線内周り外周り~ともに運転を見合わせてぇ~おりまぁす~中ぅ央線、総ぉ武線ともにじょこ~う運転を、しており、皆様は誠に申し訳ぇ~ぃございませんっ」
人ごみの中で横一列になって呆然と立ち尽くす七人。
そう電車が地震で止まってしまったのだ。これから皆で、愛川武博の家に引越しパーティーに行く予定だったのだが、なんというタイミングの悪さだろう。玉利麻衣子は頭を軽くさげた。切ったばかりの短くなった髪が顔を隠し、東京に来たばかりの彼女は静かに呟いた。
「東京は危うさの中に出来た、砂の都なんだね。人も街も」
竹内昭彦はちょっと悲しそうな顔して微笑んだ。東京生まれの彼にはどのように聞こえたのだろうか。彼はほとんど色がついているどうか分からない、買ったばかりのサングラスをかけて掲示板を見た。武博の姉である文江は鞄をふり回しながら「だからよ!!!」を連発していた。果たして何が「だから」なのだろうか?劇団やぶさかの二人も聞いた瞬間に顔を見合わせ首をかしげていた。そりゃそうだろう。何に対して「だから」なのか。そしてその時金野潤は思っていた。
「なんでこんな時まで、運転手さんの放送は粘っこいのだろう・・・・・・普通に喋れよ!」
呑気だ。愛川にいたっては「・・・ハラヘッタ」輪をかけて呑気だ。そしてその後の瞬間、ほとんど同時に全員の頭の中に浮かんできたことがあった。それは見事にシンクロした思いだった。
「引越しパーティーは中止だ」
麻衣子は左に目線だけ動かした。するとほぼ同じく昭彦も右に目線を流した。潤は息を小さくはいてちょっと大き目のポロシャツの肩をたくし上げた。文江はお気に入りのピンクの鞄を右手から左手へと持ち替えた。やぶさかの二人はパーティーには行かないが、同時に武博のほうを見たのだった。武博は言った。
「埼京線で新宿まで行って、それから少しずつでてる中央線に乗れば辿り着けそうだね」
「え!?」みんなの呼吸がリンクした。
「麻衣ちゃん加田さんにメールして。仕事終わったら来るって言ってたから。文江姉ちゃん鞄持つよ。竹内君さっき言ってた話、電車で聞く。金野君そのポロシャツ似合うね」
そう、彼は諦めてはいなかったのだ。
と言うところで続きます。すいませぬ。今から用事があって家を出るので。まて次号!!