目先・10月3日【彼】
今日もいた、今日こそいた、
〈彼〉
私はその鳥のことを〈彼〉と呼んでいる。
オスなのかメスなのかもわからないし、
〈彼〉なんて、味気のない呼び方だとは思うけれど、気に入っているので。
毎日通る道筋には川が流れていて、彼はいつも同じ場所に立っている。
圧倒的存在感で、その存在感を残したくて何度もカメラを向けたことがあるのだけれど、カメラにはその存在感はどうしても写すことができない。
彼は多分、鷺だと思う。
いつも同じ方向を見て、すらっと立っている。
微動だにしない時がほとんどだけれど、時々何か空気の動きを感じたように、くるっと首を返したり、見つめる方向を変えたりする。
“何を見ているのだろう。”
いつも思っていて、その彼が見つめる先が気になって、私は必ず足を止めて、彼を見つめることになる。急いでいても、足が止まる。
今日はいつもと少し違う方、川に作られた水路の先の方を見ている。
“そこに、何かがいるのかな?”
目で見ているだけではなくて、音も聞いて、振動も聴いているのだと思う。
私の日常に時々登場する、ファンタジーのように見える現実。
祐子