移動する羊 是楽日

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移動する羊による稽古場の一つであり、呟きの場であり、表現の場所 物語・小説・詩・遊び

稽古場情報 彼女はそ​の人の背景に圧倒的な​歴史上の意味をミル

彼女の語る口調がゆっくりとなったのを僕は見のがさなかった。

何かを決意して、大切なことを話す時の彼女のクセ。

そのささやかなスピードの変化の意味がワカル人は、そんなに多くはないだろう。



まるで時限爆弾のような、こちら側に予感にも似た感覚を呼び起こさせる彼女のクセ。

数分後、自分の父親のことを決して話そうとしない彼女が、静かに当たり前のことのように父親を語り始めた。

幾度か折に触れ彼女の父親のことを尋ねたことがある。
しかし彼女はそのつどはぐらかし、漠然と曖昧に受け流す。
それが三回あって以降、彼女が話すまでは決して彼女の父親のことには触れまいと心に誓った。

でもある時に別な人間を一人入れ、三人で語っている時にそのもう一人が彼女へ、直接的に父親のハナシを聞いたことがあった。
僕がやんわりと話題をずらそうとしたら、彼女は優しく丁寧に僕らに言った。

「いつか話すタイミングがあれば私から話すよ」


いつかのタイミングは物理的なタイミングか、彼女の心のタイミングなのか分からないが、その時がきたら、何はさておき耳を傾けようと決意した。
その話してくれる意味を、僕はとても大切にしたいと思ったから。


そして実際そのタイミングをむかえて思ったことは、“少しコワイな…”ということだった。

変なハナシだけれど、知るのが怖い。

脚本を書き演出をやる以上、様々のことを“知らなければナラナイ”と思っているが、それと同じくらい、知りたくない。
ゆえにたまに「知りたくない」が圧倒する。

しかし知る努力をすることを、なるべく選ぶようにしている。
自分の中にある人間としての“知りたい欲望”に寄りそうようにする。


僕は軽く深呼吸をして、まるで今朝食べた朝食のハナシでもするかのように父親のハナシをする彼女の声に耳を傾けた。
正確には心の響きに。


彼女は語る。

辛辣に優しく嫌悪と憎悪と諦めと愛情を、彼女は実に一時間をかけて語る。
僕は相づちをうち、どうしても確認したいいくつかを質問する以外は、ただ黙って彼女のハナシを聞いていた。

彼女はイッキに話してしまうと、冷めてしまったコーヒーを飲みほし、氷の溶けた水を飲みほし、しばらく黙っていた。
僕も黙っていた。
ふと店の外を見る。

大きなガラスの向こう歩いている恋人たちがやけにイチャイチャしていて、それが妙にかんにさわったは、僕自身があまりに違う世界に身を投じていたからかもしれない。

そして自分の父親のことを考えてみた。
そして自分が父親になることを考えてみた。

思考しながら長い間外を眺めていたら、彼女が息を、軽くはく音が聞こえた。
彼女を見る。
彼女はそれを待っていたかのように僕の瞳を覗きこんでゆっくりと喋る。

僕はなんだか3日ぶりくらいに彼女の声を聞いたような心持ちで聴いていた。


「ねぇ愛川くん。父親のことを考えるってことは私にとっては“時代”を考えるってことなの。“歴史”を考えるってことなの。“血”よりも深く重い“生をあがく欲望”に向き合うことなの。それは『父親』という名の背後にいる圧倒的な力に向き合うということなのよ」


僕は「ワカルよ」と口にしようとしたがうまく言葉にならず、ただ頷くだけだった。
彼女はそうして伝票を取ると僕の分のお茶代を出してくれた。
最初からの約束だ。
平日の昼間に時間があるのは僕くらいのものだから。

お互いはそれからそれぞれの日常へ、行く。
クセで彼女を見送ったが一度も彼女は振り返らなかった。

僕はまた思考する。
しかし思考はぐるぐるしてマトマラナイ。
ただ一つ、確かな気持ちがあった。
ハナシを聴いて、広い宇宙に放り出されたような感覚に支配されている中で唯一のリアル。


“父親”になりたい。


初めて本気で思った。
良い父親になりたい。
まるっきり予定はないけれど。
愛川です。




今週の稽古
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11月2日(金)
17時30分~21時30分
雑司ヶ谷区民集会室


11月4日(日)
13時~16時
東長崎第五区民集会室
(スミマセンいつもより1時間早く終わります)



基本稽古内容
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@基礎訓練(アップ・体幹・身体トレーニング)
@ミッシングウォーク(羊メソッド)
@テキスト作品作り

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クリスマスにお芝居をやるつもりでしたが、延期。
2013年2月15日~17日あたりを画策中。
引き続き、参加者募集中。




稽古場は誰でも参加出来ます。

いつもだいたい池袋周辺で稽古。

興味のある方は愛川武博(loveriver@di.pdx.ne.jp)まで『稽古場参加希望』とタイトルに書いてメールください。

テキストを用意したいので、来られる方はお早めにご連絡ください。

勿論、当日ヒョイと来てもらっても構いません。


皆様、気軽にいらしてくださいませ。
by moving_sheep | 2012-11-02 00:08 | 稽古場レポート | Trackback