移動する羊のつぶやきです。

by moving_sheep

まるで無人島に漂流して、洞窟に刻む1日1日のように

僕が十代最後の歳に、ある年上の女性に会った。

彼女は日々のあらゆることを感じ、想い、考え、そして記憶した。
ささやかなことにも意味を見いだし、怒り、喜び、悲しみ、でもいつも次の瞬間には笑っていた。
彼女は楽しんでいた。
生きる瞬間、瞬間を楽しんでいた。
そして同じくらい傷ついていた。
何故なら瞬間の痛みすらも記憶していたから。
彼女にとってすべてが等しい価値があった。
どんなことも、ないがしろにしない人だった。
痛みも喜びも怒りも悲しみも楽しさも、同じように大切に扱う人だった。

そして忘れない彼女は、他人がいとも簡単に忘れてゆくことで傷ついた。

一度だけ、彼女が強く素敵だと感じた僕の言った一言を、僕は忘れていたことがあった。
その時彼女は絶望的に悲しい瞳で、優しく言った。

「だって武博君が言ったんだよ」

僕はその時、ハッとした。
彼女のその悲しい瞳を、僕は今でも忘れられない。

僕はそれ以降、なるべく自分の言ったことを忘れないように心がけた。
他人の言ったことを忘れないように心がけた。
勿論、人間なので限界がある。
人は忘れてゆく生き物だ。
それでも僕は日々の風景を、空気を言葉を意味を想いを表現を痛みを、感じ、忘れないと、誓った。

そこから僕は“人間”への道を歩いている。

少しずつ人間に向かっている。
まだ道なかばだ。
まだトカゲくらいだ。

僕は脚本が出来て演出をしている時に、久しぶりに彼女のことを思い出した。

僕に優しく未来を示した彼女のことを。


本番まであと2日。

僕らは稽古場で、感じ、想い、考え、そして記憶する。
そして目指している。
ただひたすらに目指している。

でも大変だから、心ではめちゃくちゃ泣いている。
笑え!
笑うんだ!
笑う門には未来がくる。


なにはさておき、僕らはひたすら妄想収集中。
by moving_sheep | 2010-10-28 22:08 | 妄想収集家 | Trackback | Comments(0)
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