妄想羊
んで愛川が脚本を書くことに。
そして皆に言う。「二人で妄想収集家の話をするんだ」すると様々な人に似たようなことを言われる。
「妄想収集少女?」
どうやら藤田祐子さんのほうが妄想のイメージがあるらしい。ワカルけど。ま、『妄想収集少女』は次回作としても、とにかくそういうワケで『妄想収集家』を望む男子と『妄想少女』の女子の二人による、移動する羊コラボレーション作品『妄想収集家』をやることに、あいなりました。
ユニット名は妄想羊。
そんな二人による物語の始まりはこうだ。
その少年は小さい頃から、この世界と自分について、何か他の人が感じる感覚とは違う、“違和感”を感じていた。
『この世界は、ひょっとしたら自分が、守っているの、では、ないのか?』
自分の中に、何か異世界が果てしなく広がっていて、そこにはたくさんの神々や、天使や、悪魔や、使徒が、棲んでいる。そしてそいつらがこの世界に出たがっている。でも自分という器がそいつらを抑えることによって、そいつらの、この世界への侵攻を防いでいるのだ。
神々なら良いじゃないのか?
いや、この世界にとって神も悪魔もあまりたいした差はないのかもしれない。
この世界との圧倒的、“種の起源の相違”という意味において。
我々とは、明らかに属性が違うのだ。
少年は一度この“違和感”を母親と父親に話したことがあった。彼が5歳の頃だ。まるで、子供らしくないその発言と、あまりに確信に満ちた純粋な瞳を見た時に、両親はなんだか“怖く”なった。
少年はもともと、生まれたときから、少し変だったのだ。この世に生まれた瞬間に、最初に彼は大きく世界に叫んだだけで、彼は泣き叫ぶこともなく『笑っていた』のだ。まるで、この世に生まれたことを楽しんでいるかのように。
医者も看護師も母親も立ち会っていた父親も、なんだか少し背筋がゾッとした。
無邪気に笑う赤ん坊を見て、大人達は恐怖したのだ。
でも、彼の笑顔は、まるで天使のように可愛かったのに。
だから、両親にとっては彼は、この世界の住人とは少し違って見えたのかもしれない。
「和人、お前は誰からそんなウソを教え込まれた?母さん、なんか変なものでも読ませ聞かせたのか?」
「私は何も。公園で遊んでいる時に、誰かに吹き込まれたのね」
「ううん。かずくんがじぶんでおもうんだよ」
少年はその時の両親の歪んだ顔を今でもハッキリと覚えている。
それから少年はそのことを口に出すことはなくなった。彼は頭が良かった。勘が働いた。人の心の在り様を知ることが出来た。彼は人より、世界の真理みたいなものに敏感だったのだ。
その彼が、ある人物に会ったのは小学生に上がって4年目のことだった。彼にとってこの歳は、いくつかの出会いの歳であり、変化の歳であり、長い長い旅の始まりになった。
それはなんだか、奇妙な出会いだった。その日は空高く、蒼が透きとおるほどの青空な、秋の日のことだった。
少年が住むその街には大きな川が流れている。
彼はよくその川のほとりに座り、学校の帰りに飽きずに何時間も、ひたすら川の流れを見ていた。
川辺りに大きな樹があって、よくその下に座り、ひたすら川の流れを見ていたのだ。
彼の街はインドの地方都市と姉妹都市だった。その姉妹都市から送られた樹木だった。
なんだか彼はその樹の下がとても落ち着いたのだ。
彼はその日、いつものようにその樹の下で川面を眺めていた。すると川上から一艘のカヌーボートに乗って一人の、長い白髪を後ろに束ねた老人が現れた。
カヌーボート?
老人?
彼は小さい頃からこの街で川を見続けていたが、こんなことは初めてだった。その老人は少年を見つけると一瞬ハッとし、嬉しそうに笑顔で近づいてきた。そして少年の前の岸につけると、少年に話しかけてきた。
「やあ少年」
「コンニチハ」
「珍しい少年に出会った」
「珍しい?」
「驚きだ。だから生きているのはヤメラレナイ」
「珍しくないよ」
「あっイヤこれは失敬」
「でも僕も、珍しいものに出会ったよ」
「ほう、誰だ?」
「おじいさん」
「はは。面白い」
「何してるの?」
「世界中の川を下ってる」
「色々な国の川を?」
「そうだよ。川を下るんだ。あらゆる国のあらゆる川を下るんだ。すると、実に様々なものが見えてくる。大河。小川。ヘドロの川。枯れた川。清流。昔、川だった道。下りながら、そこから人々の営みが見える。その国の歴史と現実が見える。この世界が見えてくる。そして私はいつしか、この世界に繋がっている、何か違う世界、異世界とでも言うのだろうか?それが視えるようになった」
「イセカイ?」
「いやあれは神と呼ばれる人々の世界なのかもしれない」
「それとも悪魔たちの世界なのかな?」
「ほう。お前の口からそれが出るのか」
「なんとなく、だよ」
「あるいは…。視えるのか?」
「ううん。感じるんだ」
「やはり面白い」
「きっと何処かにあるんだよ」
「そうなのかもしれない。しかし実はある仮説が頭を離れないんだ。ある時、ふと思ったのだ」
「何を思ったの?」
「あれはひょっとしたら、未来の我々かもしれない」
「未来の僕ら」
「未来の我々の世界から届く、ビジョンなのじゃないのか?」
「僕らは神様になる」
「もしくは悪魔にね」
「つまりそれは進化?」
「いや、案外退化なのかもしれない」
「僕の中に未来がいる」
「まあ、もっとも私の妄想かもしれないが、な。お前も視てみるか?」
「視ることが出来るの?」
「ああ。出来る」
「視たい!」
「いいだろう。瞳を閉じろ」
「うん!」
そうして嬉しそうに少年は瞳を閉じた。老人はそっと自分の瞳を、右手の人差し指と中指で触れた後、その指先を少年の瞳にゆっくりと近づけ、軽く触れた。
その瞬間、青空いっぱいに映像が映し出された。それはまるで、地球がみる夢。
たくさんの樹木や花が、空から降ってくる。
その中を様々な神々や天使や悪魔や使徒が空を翔ぶ。
その中に、まるで普通の人間の姿をした男が、空を歩いていた。
そう翔ぶのでなく、歩いていたのだ。
まるで歩くことこそ生きることだ、と言わんばかりに。まわりの神々や天使や悪魔や使徒は彼に気づいた。そしてゆっくりと彼の前に道ができた。彼はあたりを見渡し、微笑み、瞳を閉じた。彼のまわりから離れたすべての未来人が、その瞬間に彼に襲いかかった。
一瞬にして彼は塊になった。
神々や天使や悪魔や使徒の球体。
しかし球体から光が漏れる。その光の光量は膨らみ、そして弾けた。バラバラと大地に落ちる未来人。その中にいた彼は、上を見上げていた。
その先に一人、彼と同じような普通の人間の、髪の長い男がいた。
『久しぶりだな』
彼はその長髪に言った。長髪の男は答えた。
『ああ、本当に久しぶりだ』
そして長髪は、ゆっくりと両手を広げた。次の瞬間、雨が降ってきた。紅の、まるで太陽の涙のような雨が。
「雨が降ってきたな」
老人は空を見上げて言った。少年はゆっくりと瞳を開けた。そして呟いた。
「ねえ」
「なんだ?」
「僕だ。僕が、いた」
「そうだ」
「空を歩いていた」
「初めてお前を見た時、つい笑ってしまった」
「出会ったから?」
「人生はこれだからやめられない」
「ねぇ、これは本当に未来の出来事なの?」
「さあな、分からない。ただ、これだけは言えるかもしれない。お前は出逢い。そしてまた出逢う。この私に出逢ったように」
少年は頷き。そして上を見上げた。
雨が降っている。
未来から雨が降っている。
ちなみに「妄想収集家」はこんな壮大な話ではありません。
なら何故書いたんだって話ですが、それは観てからのお楽しみ。
そうして僕らの物語は進んでゆく。
なにはさておき、僕らはひたすら妄想収集中。

