2010年 08月 15日
稽古場情報 あなたは“マドロミの詩人”と僕を呼ぶ
「お茶をしないか?」
突然のたった一言のメールにビックリする。
彼からメールが来るなんて、なんて久しぶりのことなんだろう。
僕が昼間に時間があることを知っているからだろうか?
確かに平日の昼間につかまる奴なんて、そうそういないだろうから。
僕はまだ起きていたので、すぐ返信をだした。「喜んで」と。すぐに電話がくる。そもそもアナログな人なので、メールなんかしない人なのだ。僕が昼間に寝ていることを知っているので、メールをしてくれたのだろう。携帯電話ですら、それほど必要としていないんじゃないだろうか。
電話にでると彼は、こんにちは久しぶりだね、と言ったあとに、「ありがとう」とゆっくり優しく言った。
この人は感謝の言葉を惜しまない。
いつでも、アタリマエという感覚に陥らない。
気を許しているからという理由で、人をナイガシロにしない。
親しき仲にも礼儀がある。
僕が、断るワケがないことを知っていても、決して乱暴にはならない。
そして二時間後に待ち合わせをして、僕らは久しぶりに会った。
懐かしい。
でも昨日会ったばかりのような感じにもさせる不思議な人だ。
彼の好きなコーヒーの美味しい店で、コーヒーを頼んだ。
僕は普段はすすんでコーヒーを飲まないのだけれど、彼といるといつもコーヒーを頼む。お酒を飲まない彼は、大好きなコーヒーにはコダワリがある。僕も何故だかこの人といると、お酒を飲む気がなくなる。彼はいつものように、初めは香りを楽しむようにしながら、ブラックで飲む。それから、シルシみたいにささやかに砂糖を入れて飲んだ。そして静かに語りかける。
「久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです」
「相変わらず芝居やってるのかい?」
「相変わらず芝居やってます。相変わらずパソコンはまだ使ってないんですか?」
「相変わらず使っていないよ。何度か挑戦してみたけれど、どうにも僕には合わないんだ。僕は図書館に1日中入りびたる人間だよ。勿論、図書館で本の検索にパソコンは使うけどね。その程度さ。それより創作活動は順調かい?」
「はい。今は楽しい日々ですよ」
「そいつは良かった。相変わらずの、夢に影響されながら書いたりするのかい?」
なんてタイムリーなことを言う人だろう。
この人はいつも、どんなに離れていても、“イマ”を読み取るのが巧い。
「悪夢を見続けてますよ」
「そりゃー素敵だ。意味のある日常をおくってるんだね」
スルドイ。
僕の日常は楽しい話がないほどに充実している。不思議なものだ。人に話すほどの楽しい話がないほうが充実し安定しているなんて。つまりささやかな楽しみに溢れている。悪夢を見ればみるほど、日常の僕は元気だ。
「悪夢好きってマゾですかね?」
「そんなことないさ。君はマドロミの作家なんだか」
「“マドロミの詩人”」
「懐かしいな」
「あなたが僕につけたあだ名ですよ」
「君は第七感でもの作りをするからね」
「それは自称ですけど」
照れくさくて笑う僕に、彼は優しく言う。
「まさに君は、その通りだよ。だから言ったんだ。“マドロミの詩人”だと」
実は最近も夢を題材に作品を作ったのだ、と言おうと思ったけれどやめた。最近の作品を見てもらいたいけれど、それはきっと実現しないことだと思ったからだ。ある理由で。だから僕は違うことをきりだした。
「でも最近、ある稽古場で思考が回らなくて。その第七感が働かない感じなんですよ。その影響か少しなんだか、うまく書けなくて。ちょっと届かないというか」
彼はニコリとした。その笑顔はまるでこの世のものとは思えないほどの優しさに溢れている。僕はいつでもこの笑顔に恋をする。
「君は感受性が強いからね。それも人の心が求めるものを、君の心が察知する。それを無意識で求めるものを与えようとする。ある意味君は空気を読むのが巧い。カリスマにもなるし、とことん堕ちることもある。無駄話をするし、無駄話をしない。君はそこではきっと下に見られているんだろうね。勿論、君が決意すれば、それを凌駕する領域に居られるだろうけれど、君は、なかなかそれを、しない。それはある意味、すべての人と対等であろうとするスタンスだ」
この人はいとも簡単に僕を表現する。
なんという洞察だろう。
僕はまるっきり違うことを考えていた。
僕自身の“霧の時代”が問題なのだろうと考えていた。
つまり“霧の時代”の影響下にまだある稽古場なんだと。
でも言われて思いあたるふしがある。ふと僕は聞いてみた。
「僕はそこにいても良いのだろうか?」
彼は軽く息をつき、言った。
「それは君が選ぶんだ」
彼はまた優しく微笑む。そして続けざまに言った。
「でも君は、次にその場所に行った時は、きっといつもの君さ。楽しみ、笑い、そして思考は回転するはずだ。君は順応し、君は君でいられる。そしてちゃんと選択をするんだよ。きっとね」
まるで未来を知っているみたいだが、まさに僕はその通りなった。その後、その稽古場で、僕は僕として評価された。求められた。つまり自由に思考を回転させることが出来るようになる。でもその時は、未来なんて知りもしないから、ただ彼の笑顔につられて僕は笑う。そして昔ほどそうではなくなったけれど、自分の性格をゆっくりと言った。
「優柔不断なんですよ」
「知ってるよ。でも君の言葉は良くも悪くも“重い”んだよ。だから“選ぶ”ということは重要なんだ。君はその言葉で人の信用を得るが、その言葉で人が君から離れてゆく」
何故この人は会っていない僕の日々を、知っているかのような発言ばかりするのだろう?
僕はふと昔、ある女の子が言った言葉を思い出す。
“あなたの言葉はあなたが思っている以上に届くのよ。ささやかな日常ですら。だから私達は過剰に心が反応するの。良くも悪くもだけど。あなたはその影響力を知らなくてならない”
「僕は同じように、僕の言葉は無視されていると思っているけど」
僕は彼に言う。
「それもまた事実だろね。同時に君はナイガシロにされる。バカにされる。みんな君が優しいのを知っているんだよ」
でも僕はそれに耐えられるほどには、優しくない。彼は水を注ぎにきたマスターに、もう一杯コーヒーを頼んだ。この人はいつも4、5杯はコーヒーを飲む。僕はそれを眺めながら言った。
「どうして今日、僕を誘ってくれたんですか?」
「たまには君に会いたくなったから。じゃ、ダメかい?」
「いえ、いいですけど」
「いや、実は手紙が来てさ。なっちゃんから。その手紙に最近、愛川君が芝居をしたみたいだよ、って書いてあったんだ。なんでも偶然、君が書いたブログを読んだんだってさ。自分は予定があわなかったから観に行けなかったけど、って書いてあった。確か3年ぶりくらいだろう?作品を上演したの。だからさ、久しぶりに会いたくなったんだよ。君は作品を作っているほうがいい。役者でも脚本でも演出でも。そんな君に会いたくなったんだよ。実にささいな理由だよ」
でも僕はそんな理由でも良い。メールが来た時に本当に嬉しかった。いやむしろ、作品を作り続けることが大切だ、ということ、なんだ。
「ありがとうございます」
僕が言うと、彼はいう。
「こちらこそ、時間を作ってくれて、ありがとう。今日は僕が出すから好きなだけ飲んでくれ」
「いや、僕はコーヒーはそんなに飲まないので」
僕は可笑しくなって笑った。
「ああ、そうだったね。他のも美味しいんだ、ここは。ケーキでも食べるかい?」
「じゃあ、いただきます」
そうして僕らは5時間話した。
久しぶりにたくさん喋った。
夕方までずっと様々な話をした。
面白い話をいっぱい聞いた。
いつか話す機会もあるかもしれない。
そのようにして僕は久しぶりに彼と話をした。
そして僕は僕のことを考えた。
いや、絶えずいつも、自問自答をしているけれど、やっぱり人がどう思っているかを聞くのは意味がある。
人は様々なことを考え、決定する。誤解だろうと正しかろうと、その人の真実が僕を作る。
僕はそれを受け入れる。
まずはそれからだ。
否定も検証も研磨も、それからじっくり考えればいい。
その日はなんだか、夏の終わりを感じさせる空気の夜だった。
愛川です。
次の稽古は8月18日の水曜日の9時ー12時です。
場所は要町洋室です。
(いつも池袋周辺で稽古)
稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp
突然のたった一言のメールにビックリする。
彼からメールが来るなんて、なんて久しぶりのことなんだろう。
僕が昼間に時間があることを知っているからだろうか?
確かに平日の昼間につかまる奴なんて、そうそういないだろうから。
僕はまだ起きていたので、すぐ返信をだした。「喜んで」と。すぐに電話がくる。そもそもアナログな人なので、メールなんかしない人なのだ。僕が昼間に寝ていることを知っているので、メールをしてくれたのだろう。携帯電話ですら、それほど必要としていないんじゃないだろうか。
電話にでると彼は、こんにちは久しぶりだね、と言ったあとに、「ありがとう」とゆっくり優しく言った。
この人は感謝の言葉を惜しまない。
いつでも、アタリマエという感覚に陥らない。
気を許しているからという理由で、人をナイガシロにしない。
親しき仲にも礼儀がある。
僕が、断るワケがないことを知っていても、決して乱暴にはならない。
そして二時間後に待ち合わせをして、僕らは久しぶりに会った。
懐かしい。
でも昨日会ったばかりのような感じにもさせる不思議な人だ。
彼の好きなコーヒーの美味しい店で、コーヒーを頼んだ。
僕は普段はすすんでコーヒーを飲まないのだけれど、彼といるといつもコーヒーを頼む。お酒を飲まない彼は、大好きなコーヒーにはコダワリがある。僕も何故だかこの人といると、お酒を飲む気がなくなる。彼はいつものように、初めは香りを楽しむようにしながら、ブラックで飲む。それから、シルシみたいにささやかに砂糖を入れて飲んだ。そして静かに語りかける。
「久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです」
「相変わらず芝居やってるのかい?」
「相変わらず芝居やってます。相変わらずパソコンはまだ使ってないんですか?」
「相変わらず使っていないよ。何度か挑戦してみたけれど、どうにも僕には合わないんだ。僕は図書館に1日中入りびたる人間だよ。勿論、図書館で本の検索にパソコンは使うけどね。その程度さ。それより創作活動は順調かい?」
「はい。今は楽しい日々ですよ」
「そいつは良かった。相変わらずの、夢に影響されながら書いたりするのかい?」
なんてタイムリーなことを言う人だろう。
この人はいつも、どんなに離れていても、“イマ”を読み取るのが巧い。
「悪夢を見続けてますよ」
「そりゃー素敵だ。意味のある日常をおくってるんだね」
スルドイ。
僕の日常は楽しい話がないほどに充実している。不思議なものだ。人に話すほどの楽しい話がないほうが充実し安定しているなんて。つまりささやかな楽しみに溢れている。悪夢を見ればみるほど、日常の僕は元気だ。
「悪夢好きってマゾですかね?」
「そんなことないさ。君はマドロミの作家なんだか」
「“マドロミの詩人”」
「懐かしいな」
「あなたが僕につけたあだ名ですよ」
「君は第七感でもの作りをするからね」
「それは自称ですけど」
照れくさくて笑う僕に、彼は優しく言う。
「まさに君は、その通りだよ。だから言ったんだ。“マドロミの詩人”だと」
実は最近も夢を題材に作品を作ったのだ、と言おうと思ったけれどやめた。最近の作品を見てもらいたいけれど、それはきっと実現しないことだと思ったからだ。ある理由で。だから僕は違うことをきりだした。
「でも最近、ある稽古場で思考が回らなくて。その第七感が働かない感じなんですよ。その影響か少しなんだか、うまく書けなくて。ちょっと届かないというか」
彼はニコリとした。その笑顔はまるでこの世のものとは思えないほどの優しさに溢れている。僕はいつでもこの笑顔に恋をする。
「君は感受性が強いからね。それも人の心が求めるものを、君の心が察知する。それを無意識で求めるものを与えようとする。ある意味君は空気を読むのが巧い。カリスマにもなるし、とことん堕ちることもある。無駄話をするし、無駄話をしない。君はそこではきっと下に見られているんだろうね。勿論、君が決意すれば、それを凌駕する領域に居られるだろうけれど、君は、なかなかそれを、しない。それはある意味、すべての人と対等であろうとするスタンスだ」
この人はいとも簡単に僕を表現する。
なんという洞察だろう。
僕はまるっきり違うことを考えていた。
僕自身の“霧の時代”が問題なのだろうと考えていた。
つまり“霧の時代”の影響下にまだある稽古場なんだと。
でも言われて思いあたるふしがある。ふと僕は聞いてみた。
「僕はそこにいても良いのだろうか?」
彼は軽く息をつき、言った。
「それは君が選ぶんだ」
彼はまた優しく微笑む。そして続けざまに言った。
「でも君は、次にその場所に行った時は、きっといつもの君さ。楽しみ、笑い、そして思考は回転するはずだ。君は順応し、君は君でいられる。そしてちゃんと選択をするんだよ。きっとね」
まるで未来を知っているみたいだが、まさに僕はその通りなった。その後、その稽古場で、僕は僕として評価された。求められた。つまり自由に思考を回転させることが出来るようになる。でもその時は、未来なんて知りもしないから、ただ彼の笑顔につられて僕は笑う。そして昔ほどそうではなくなったけれど、自分の性格をゆっくりと言った。
「優柔不断なんですよ」
「知ってるよ。でも君の言葉は良くも悪くも“重い”んだよ。だから“選ぶ”ということは重要なんだ。君はその言葉で人の信用を得るが、その言葉で人が君から離れてゆく」
何故この人は会っていない僕の日々を、知っているかのような発言ばかりするのだろう?
僕はふと昔、ある女の子が言った言葉を思い出す。
“あなたの言葉はあなたが思っている以上に届くのよ。ささやかな日常ですら。だから私達は過剰に心が反応するの。良くも悪くもだけど。あなたはその影響力を知らなくてならない”
「僕は同じように、僕の言葉は無視されていると思っているけど」
僕は彼に言う。
「それもまた事実だろね。同時に君はナイガシロにされる。バカにされる。みんな君が優しいのを知っているんだよ」
でも僕はそれに耐えられるほどには、優しくない。彼は水を注ぎにきたマスターに、もう一杯コーヒーを頼んだ。この人はいつも4、5杯はコーヒーを飲む。僕はそれを眺めながら言った。
「どうして今日、僕を誘ってくれたんですか?」
「たまには君に会いたくなったから。じゃ、ダメかい?」
「いえ、いいですけど」
「いや、実は手紙が来てさ。なっちゃんから。その手紙に最近、愛川君が芝居をしたみたいだよ、って書いてあったんだ。なんでも偶然、君が書いたブログを読んだんだってさ。自分は予定があわなかったから観に行けなかったけど、って書いてあった。確か3年ぶりくらいだろう?作品を上演したの。だからさ、久しぶりに会いたくなったんだよ。君は作品を作っているほうがいい。役者でも脚本でも演出でも。そんな君に会いたくなったんだよ。実にささいな理由だよ」
でも僕はそんな理由でも良い。メールが来た時に本当に嬉しかった。いやむしろ、作品を作り続けることが大切だ、ということ、なんだ。
「ありがとうございます」
僕が言うと、彼はいう。
「こちらこそ、時間を作ってくれて、ありがとう。今日は僕が出すから好きなだけ飲んでくれ」
「いや、僕はコーヒーはそんなに飲まないので」
僕は可笑しくなって笑った。
「ああ、そうだったね。他のも美味しいんだ、ここは。ケーキでも食べるかい?」
「じゃあ、いただきます」
そうして僕らは5時間話した。
久しぶりにたくさん喋った。
夕方までずっと様々な話をした。
面白い話をいっぱい聞いた。
いつか話す機会もあるかもしれない。
そのようにして僕は久しぶりに彼と話をした。
そして僕は僕のことを考えた。
いや、絶えずいつも、自問自答をしているけれど、やっぱり人がどう思っているかを聞くのは意味がある。
人は様々なことを考え、決定する。誤解だろうと正しかろうと、その人の真実が僕を作る。
僕はそれを受け入れる。
まずはそれからだ。
否定も検証も研磨も、それからじっくり考えればいい。
その日はなんだか、夏の終わりを感じさせる空気の夜だった。
愛川です。
次の稽古は8月18日の水曜日の9時ー12時です。
場所は要町洋室です。
(いつも池袋周辺で稽古)
稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp
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| 2010-08-15 21:02
| 稽古場レポート
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