移動する羊 是楽日

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移動する羊による稽古場の一つであり、呟きの場であり、表現の場所 物語・小説・詩・遊び

稽古場情報  可笑しくて笑う夢

落ちてゆく感覚で目が覚める。
または土砂降りの雨でマドロム。
刹那を求めて何かが覚醒する。

つまり僕は強烈な夢によって目が覚める。
しかしそのどれもが、すべて悪夢と呼ばれる種類に属している。

まただ。また悪夢を見続ける日々がやってきた。




嬉しいー!嬉しい?

それは今年の年明けに何週間か続いた悪夢の日々の再来だ。それはまるで悪魔が僕に語りかけているような日々だ。

「もっともっと堕ちるんだ。お前は目指せ。さらなる底を目指せよ」

そして僕は落ちてゆく感覚と土砂降りの雨と刹那の後に、大笑いをする。

なんという感覚のバリエーションなのだろう。

自分の中にこんなに豊富な感情があるなんて思いもよらなかった。それは「生」を感じる恐怖でもなく、喜びでもなく、もうただ単に恋だ。
つまりそこに人間関係を作る、擬似的恋愛が存在する。
相手に憧れ、尊敬し、嫌悪し、ナイガシロにし、消費し、消費され、大事さや大切さの意味を知り、甘え、捧げ、捧げられ、怒り、悲しみ、喜び、楽しい。

つまり僕は夢で恋愛をする。
究極のバーチャルリアリティーだ。
そこではすべてが現実で、すべてが虚構だ。
過去であり現在であり未来だ。
会えなくなった人々が語りかけ、身近な人々が側にいて、これから会う人々に出会う。
たとえば大笑いをした夢はこんな夢だ。


彼は僕に語りかけた。

「何故君はそんな瞳をしている?」

そう言われて、夜の街が背景に映るバーの大きな窓を見る。そのバーは地上何十メートルも上にあり、遠くのほうまで見渡せる。そこには高層ビル群の街がいて、僕がいる。瞳は黄緑色に染まっている。まるで宝石だ。この宝石の名前を僕は知っている。でも思い出せない。

「なんて色だ」
「なんだ気付かなかったのか?今日来た時からずっと、その色をしていたぜ」

暗闇で鈍く光るその宝石にいったい何の意味があるのだろう。

「まあ、いいさ、別に死ぬワケじゃなし。瞳の色くらいどうってことはないよ」

僕が言うと、彼はまるでセンスの良い冗談を聞いたかのように笑い、ギムレットを一口だけ飲んで、僕と同じように街が映る窓を見た。僕を見ているのか、街を見ているのか、自分を見ているのか、それともその全てを俯瞰しているのか。彼はそうして瞳を閉じて呟いた。

「おそらくそれは呪いみたいなものだ」
「何が?」
「その瞳がさ」
「この瞳が?」
「お前は真夏にとり憑かれてる」

意味がわからない。僕が、真夏に、とり、憑かれてる?いったいコイツは何を言っているのだろうか。夏が人にとり憑くなんてことがあるワケがないじゃないか。そんなもの信じるワケにはいかない。

「信じないのはお前の自由だ。そしてきっと信じられないだろう」

まるで僕の心の中を読んでいるみたいだ。

「ただこれだけは言っておく。いつか真夏がお前を滅ぼすぜ」

僕は急に可笑しくなって笑いながら言った。

「それは予言かい?」

彼は窓から目を離して僕の瞳を見つめた。

「予言だよ」

えっ?何故だか彼の瞳が悲しそうに潤んでいる。今にも大粒の涙が溢れ零れそうだ。僕は胸が締め付けられた。

「どうして君が泣きそうなんだよ」

僕が言うと、彼はその悲しみを携えたまま、笑った。そして泣いたのは僕のほうだった。

「そろそろ行くよ」

彼は優しくそう言って立ち上がった。

「まてよ。まだいいだろう?それに行くって何処に行くんだよ」
「過去に戻るよ」
「過去に?何故?」
「だって俺は過去の住人だぜ?」

そう言うと伝票を持って立ち上がった。右手をスラックスのポケットに手を突っ込み、胸からメガネを取りだしかけた。

「ここまでの分は俺が出しておくよ。お前はノンビリ飲めばいい」

そうして背中を向けて軽く左手をあげた。カッコイイ。そして入れ替わりで可愛さがやってくる。その彼の横をドアから入ってきた女性が通りすぎたのだ。笑顔だ。無邪気で天真爛漫な笑顔。その彼女はまっすぐに僕のほうに向かって歩いてきて、左手をヒラヒラとさせ、挨拶をしてきた。

「お待たせ」
「お待たせ?」
「だって待ったでしょ?」
「待っていた?僕が君を?」
「そう。ずっと、あなたは、私を、待っていた」

僕は彼女の瞳を覗きこんだ。その瞳は太陽のように輝いている。少し橙色に揺らめく瞳はなんだか、ゆっくりと僕の心に染み込んでくる。僕はその美しさに見とれてしまう。

「待っていたかどうかは分からないけど、僕の瞳と君の瞳が呼応しているのが分かる。僕の頭がクリアになってゆく。あらゆる場所に行ける感じだ」
「そりゃーそうよ。だって私はあなたの太陽なのだから」

僕は頷く。笑顔になる。彼女に右手をさしだした。彼女はゆっくりと僕に右手を伸ばす。僕は彼女の指先に目線がいく。白い細いきれいな指だ。でも彼女はその指先から砂になってゆく。僕は弾かれたように彼女の顔を見た。彼女はその瞳の輝きだけを残して砂になってゆく。つまり小さな太陽だけが残った。でもその太陽も色をなくしてゆく。僕は気付く。そうだ「今」はたえず過去になってゆく。僕は砂になった彼女を見て、その砂を少しだけ濡らす。でもその砂は生きかえることはない。僕はただ、砂を濡らす。

ふと視界に何かが横切る。

僕はゆっくりと窓の外を見た。
外には街を背にしながら、大きな黒い翼を広げ、黒い、まるで甲殻虫のような鎧を全身に纏いながら空を飛んでいる、「僕」が、居た。
そして無邪気に笑っている。
ふと「僕」である彼は空を翔びながら、空を見上げた。
すると空から人が降ってきた。
膨大な数の人間が降ってくる。
いつまでもいつまでも降り続けている。
「僕」は僕を見て何かを語りかけている。
でも声が聞こえない。
分厚い窓がそれを邪魔している。
でも大切な何かを語っている。
僕はそれを聞かなければならない。
それを知らなければならない。
それは未来からの声だ。

何だ?

何を言っている?

未来の僕はいったい何を語りかけているのだ?
僕は無意識に窓に手を触れた。
その瞬間に窓が粉々に割れた。
ガラスは街の輝きを身に纏いながら、地上へと落ちてゆく。
そうして僕は未来と対峙した。「僕」である彼は落ちてゆく人々を背に、翔びながらこう言った。

「お前はまた失うだろう。失望するだろう。そうして気づくだろう。それでいい。それがいい。お前は何も手に入れられない」
「僕は何も手に入れられない」
「素敵じゃないか」
「素敵?」
「お前は永遠の旅人だ」
「旅人?」
「夜をゆく者だ」
「そう言う君は何処にゆく」
「僕はこれから宇宙を目指す。漆黒の真空だ。無限の拡散だ。そして真理に辿り着く。いつか必ず」

そういうと「僕」はニヤリと笑い、上を見上げた。そして一言、言った。

「謳歌しろよ」

そうして人々が降りしきる中を、宇宙へ向かって、一人、行った。
僕はゆっくりと瞳を閉じて、思う。

いつまでもこの世界で生きてゆこう。
いつまでも旅を続けよう。
いつまでも夢を見続けよう。
たとえ悪夢だとしても。

いやむしろ僕には、悪夢こそがふさわしい。

そのように目が覚めて、僕は笑いながら世界を肯定する。また、新しい現実が始まる。悪夢を見続ける。そしてやっぱり僕はふと、心のそこから笑ってしまう。だって、僕は元気だよ。

悪夢よ、様々な感覚をありがとう。


愛川です。


次回の稽古は明日、8月12日の木曜日の午前中9時ー12時です。
場所は要町和室です。
(いつも池袋周辺で稽古)

稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp
by moving_sheep | 2010-08-11 20:53 | 稽古場レポート | Trackback