稽古場情報 堕ちた悪魔が語る蒼
それは無邪気で天真爛漫で、まるで夏の太陽だ。
僕は悪魔で堕ちて底を這う。
つまり僕は二度堕落する。
堕悪魔だ。
空から地に堕ち、大地からさらに底に堕ちる。
そこで這いずりまわりながら空を見上げて、空の蒼さの意味を知る。
その天使はお茶を持ちながら、ウデーっとテーブルにうつ伏せる。
そしてチビチビと美味しそうにお茶を飲む。
背中に天使の羽根が見える。
僕はその姿を見て、予感する。
たぶん僕は一生、彼女の“この姿”を忘れないだろう。
何故かその瞬間に未来を確信する。
そうして10秒間の夢を見る。
正確には何度も繰り返し僕の中で反芻された、過去の出来事がまるで絵画のようにたち現れる。
だから、一瞬で膨大なストーリーを見ることの出来る夢のように、僕の中に10秒間だけ物語が現れた。
でもそれは瞬間でも、様々な意味と想いと示唆に溢れていた。
その物語は、ある視点では理路整然として、ある視点では混沌としていた。
つまり意味は整理され、想いは雑然としていたのだ。
それはこんな日々だった。
僕はその時期、ただひたすらに働いていた。
週6日間出勤し、1日15時間働いた。
家から仕事場まで移動時間に往復3時間はかかったので、実質使える時間は6時間だ。
細々としたことをやる以外は、ほぼ睡眠に使っていたと思う。
そして唯一の休日は、「ある人」に会って学校や恋人や早期研修の話を聞くことに時間を使っていたので、だからほとんどフル稼働で生きていたと思う。
その時期の前に、僕はいくつかの底辺を移動していたが、あることをキッカケに浮上していた。
そして僕は高く大きな、でも手を伸ばせばすぐに届く夢を胸に抱いていた。
だからとても生きていくことに前向きだったのだ。
長時間、働くことすら楽しかった。
その夢のために生きていくことが楽しかった。
半年以上、そんな状態が続いたと思う。意思や意味や希望が、僕に力を与えてくれていた。
でもその日々にも終わりはやってきた。
僕らはいくつもの終わりと始まりを繰り返す。
その時代の終わりは、4月の後半の日曜日だった。たくさんの知り合いが新生活を始め、たくさんの出会いがあり、そして僕のその時代の終わりがやってきたのだ。4月終わりの日曜日、終わりの風景は、休日に過ごしていた「ある人」との思い出だった。
何故その日が終わりの日なのだろう?
その日で何かが終わったワケではなく、むしろ大いなる夢を、確実に手にすることがデキルことを感じさせる日だったのに、思い返して思うのは、終わりの日のイメージは、いつでもその日曜日だっていうことだ。
その日はいつものようにその人と会い、昼食をとり、街を散歩して、その人の仕事の話を聞いたりしていた。
入社したばかりで大変そうにしていた。
でも夢と希望に溢れていた。
そして散歩がてら、何故か家の物件探しをしていた。
僕は昔から、引っ越しする気もないのに、新しい家に引っ越すことを想像して、物件を探すことをよくしていた。
なんだかワクワクするのだ。
新しい場所。
新しい生活。
小さい頃からずっと、十数回も引っ越しをしてきたからかもしれない。
求人広告も同じような理由で、仕事を変えるワケでもないのに、よく読んでいたりした。
その日もずっとその街の(とても大きな街だった。地方の大都市。
散歩するには充分過ぎるほど、大きかった。その街の)不動産をまわって色々な物件を物色していたのだ。
まるで宝探しのように楽しかった。
ずっと二人で笑いながら探索していた。
そこで、ある一軒の家の間取り図に目がとまる。
それは完璧な家だった。
値段も安く、広さもあり、なにより立地が良い。
二人はその完璧な家について語り合った。
内装を考え、好みの家具や小物を揃え、庭には花壇を植える。
1時間近く盛り上がっていた。
そうしてヒトシキリ物色すると、近くにあるとても大きな公園を散歩した。
うららかでゆっくりと時間は流れ、人々は笑顔に溢れている。
その人はずっとニコニコしている。
僕もニコニコになる。
その後、夕食を食べた。
ウナギの好きなその人は、美味しそうにウナギを食べた。
そして食べ終わると、お茶を飲んだ。
ウデーっとテーブルにうつ伏せなり、チビチビと嬉しそうにお茶を飲んだ。
そして僕らはそんなに遅くない時間に電車に乗って別れた。
その人の、電車の窓から嬉しそうに手をふる姿が、やけに鮮明に脳裏に残っている。
それを最後に僕らは会っていない。
そして僕の夢を追いかけた時代が終わった。
ほんの少しだけ手が届き、スルリと手から零れ落ちた夢。
僕はあの時と同じトコロに立っている。あの時と違って夢は遥か先だし、仕事もガムシャラにやっているワケではないけれど。つまり僕は同じ夢抱いている。僕は現在、お茶を飲む彼女を見て気付いた。
ああ、そうか僕は、あの頃に、手に入れられなかった夢を、追いかけている。
ちなみにその時代が終わった半年後から僕は、まるで翼の生えた悪魔のように、自由に羽ばたきながら物語を作るようになる。少しずつ加速しながら。そうして今、たくさんの物語を作り続けている。羽ばたき、でも何度も何度も堕ちながら、物語を作り続けている。
あの時に夢が終わり、物語が始まったのだ。
そしてこの時、この場所で、夢と物語を同時に抱えている。ならば思う。それをとことん追求するのも良いだろう。と。あの時、手から零れ落ちた、夢という名の物語を行くのも悪くない。その物語はひょっとしたら「愛」と呼ばれるものなのかもしれない。
僕は空を見上げて、空に憧れ上を目指す。
堕ちた悪魔は空の蒼さの意味を知る。
そしてそのまま蒼になる。
そのようにして僕は、物語を生きることを決意する。
もっと物語を。
もっと物語を。
生きることは、語ることだ。
愛川です。
稽古場を再開します。新作公演ラッシュも終わり、今までを取り戻すように睡眠を取り、また創作活動の日々です。相も変わらず作品も作りながらの稽古場になるとは思います。
次回の稽古は8月6日金曜日の9時ー12時です。
場所は要町洋室です。
(ちなみに8月の予定としては12日18日27日の午前中にやります)
(いつも池袋周辺で稽古)
稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp

