彼が古代史研究会に入ったのはたいした理由があったワケではなかった。ただ絵が気に入っただけなのだ。そう大学に入って、彼は様々なサークルの勧誘を受けた。文化系、体育会系、そしていくつかの新歓コンパに顔出し、タダ酒を飲み、結局どこのサークルにも入らなかった。なんだかどのサークルも自分の居場所のような気がしなかったのだ。そうして勧誘時期も過ぎ、1ヶ月たった頃に、校舎の17号館裏のちょっとしたスペースに、まるでひっそりと咲く花のように、一枚の立て看板が置いてあった。彼はこんな所に看板があった記憶がなかったので、ふとどんな看板なのだろうと思って、見に行ったのだ。それがまさに古代史研究会の看板だったのだ。その看板には、奇妙な絵が書かれていた。ペンキはまだ乾いていなく、つい一時間ほど前に書き上がったみたいだった。そしてそのペンキの艶やかさが、その絵の奇妙さを強調していた。絵には、一人の少女がゆるやかな丘の上で踊っている。そして一人の少年が少女の横で見たことのない弦楽器を奏で、一人の少年が岩に腰掛け、それを眺めている。丘は青々と繁り、真夏の太陽はまるで地上に降りてきているように大きい。絵の半分は太陽だ。まるで何処かで見たことのある風景だと思った。自分はこの風景を知っている。いや正確には、“この風景の中にいたことがある”という想いだった。“僕はここにいた”。彼は何かの小説とかのイメージが頭に残っていて、それと結びついたのかもしれない、と思った。そして記憶を探ってみたが、まるっきり手がかりがない。しばらく考えてからふと、彼は右下に小さく書かれてある『そこにある真実を紐とく。古代史研究会』という文字を読んだ。「そうだ。このサークルに入れば、何か思い出すこともあるかもしれない」こうして彼は、古代史研究会に入ることを決めたのだ。そのようにして、彼は古代史研究所で彼女に出会った。
トリプルサマー「夏色」からの抜粋24。
稽古は日々、目隠しをしながらスイカを割ろうとしている。
僕らの夏は始まったばかりだ。