2010年 06月 09日
稽古場情報 終わりは始まり
「いい?人の心はあなたが思っている以上に、巧妙に隠されながら、そして意味を変えながら、深層から表層に現れているのよ」僕は彼女がソルティードッグを飲みほしながら、そんなことを言ったので、珍しくチビチビと飲んでいたビールを、つられて一気に飲みほした。そしてフムフムと頷きながら、店員を呼んだ。彼女は僕が頷いてるのを確認しながら、自分も頷いてまた喋りだした。「あなたは比較的、人の気持ちが分かるかもしれない。変化にたいして敏感かもしれない。でも変化をワカルということはその分、間違った判断をするかもしれない恐れも高いってことなの。分析して一般化して、イッケン正しい場所、でも実は真実じゃない場所に着地しちゃったりするかもしれない。あっ私も同じモノを。いい、だから、あなたは、分析したものを判断する前に、さらにもっと、もっと分析したものを分析しなきゃならない」なるほど。よく分かる。僕もそこはいつも怖れているところだ。「確かに君の言う通りだと思うよ。僕は間違った判断をしているかもしれない。時間はかかるかもしれないけれど、なるべく自問自答を続けている」「分かってない。自問自答だけじゃ補えないわ。他問他答よっ」「他問他答?」あー人に聞けってことね。一瞬スゴイこと言ってるのかと思ったよ。普通だ。でも彼女はさも素晴らしいことを言ったわ、と得意気に口を尖らせて、チェイサーに用意していた、カティーサークのロックを少し口に含んだ。いったい、どこの世界にウィスキーをチェイサーがわりにカクテルを飲む女性がいるのだろうか?いや案外、世界には結構いるのかもしれない。世界は広い。そしてなにはさておき目の前に、そういう女性がいるのだから。勿論言うまでもないことだが、彼女はお酒が強い。その酒豪はカティーサークのロックを舐めたかと思うと、僕に質問をしてきた。「ねぇ、あなたは自分がどれくらい残酷なんだか気づいてる?」ちなみに言っておくが、彼女とは友達ではない。だからといって赤の他人でもないけれど。「いや、たぶん分からないなー」「あなたはそれほど優しくない…」「それはなんとなく気づいているか…」「かもしれない」「あっ断定じゃないんだ」「そして、あなたは~ん~と~ん~」「ねぇ。君は僕に何かを気づかせたいために、わざわざ急に呼びたしたのかな?」彼女はやってきたソルティードッグをクイッと飲むと分かってないわね、と言わんばかりに首をゆっくり左右に振った。そして言った。「そうよ」どっちなんだ。違うから首を振ったのかと思ったら、言葉はまるで逆のことを言う。まあ、でも、僕は“コレ”をよく知っている。僕もやってきたビールを一気に飲みほした。まだ仕事までは時間がある。少しくらい飲んでも大丈夫だろう。僕はジョッキを置いて、肘をつき、手のひらに顔を乗せ、わざと思わせ振りに彼女の瞳の、さらに奥をのぞきこんだ。そうして確信を込めて言った。「フラレたんだ?」彼女の瞳が大きくなる。予想通りだ。「フラレた?」「そう、つまり失恋したってこと」「ねえ。だからあなたの判断が正しいとは限らないっ、てさっき言ったでしょう?」「いや、絶対にフラレた」ちなみに言っておくけれど、こんなに確信に満ちているが、僕と彼女は友人じゃない。彼女のことをまるで理解している口ぶりだけど、むしろ、未だに彼女がどういう人間か分かっていない、と思う。ただこれだけは確信をもって言える。君は、フラレた、のだ。「間違ってる」「フムフム。どのあたりが?」「フラレてない。そこのところが。つまり!」「つまり?」「別れただけだっ」「なるほど。確かにそれは大きな違いだ。ゴメン謝るよ。つまり君は、一方的にフラレたのではなく、話し合いのもとお互いの合意のもとに、別れた」「それでいい」「でも失恋にはかわりない」「まあ、そうだよね。ふふん。むー。そうよ失恋したのよっ」「そして僕を呼び出した」「うむ」「うむ、じゃない。これで何回目だよ」「テへ」「なんで照れるの」「まあまあ落ち着いて」「かなり冷静に話してるつもりだけど?」「テへ」「だからテへじゃない」「だって私、友達にはこういう時に会いたくないっていうか、友達には話せないっていうか、でも誰かと話したいっていうか、ねー」ほらね。友達じゃない。「僕なら良いと?」「はい!そうであります!」「ああ、そう。いや、いいんだけど、さ。全然」「でしょー!」「君が言うなよっ」とツッコむ僕をヨソに、彼女は店員を呼んでソルティードッグをまた頼んでいる。僕は小さく深呼吸をして、なるべく優しくゆっくりとこう言った。「僕はこれから夜中に仕事があるから、9時30分までしか付き合えない。だからそれまでになんとか喋り尽くしてもらえると、ありがたい」すると間髪いれずに彼女は叫んだ。「えー!?」ほら、きた。「あと4時間しかないよっ!」あと4時間、もっ、あるだろうっ。という言葉を飲み込んで僕は微笑んだ。相変わらず天真爛漫な人だ。「でも許す!今日はそれでカンベンしてやろうー」良かった許された。しかし相変わらず飽きない人だ。なんだかんだと言っても僕はこの人が好きなのだと思う。なんだかんだとイヤじゃない。しょうがない今日はとことん付き合って…ん?あれ?「今日は!?」口をついて出た僕の言葉に、彼女は不敵な笑みを浮かべて、まるで予言者の如く言ってのけた。「いいかい。世界には必ず『明日』という、今までとはまったく違う1日がやってくるものなのだよ」あっ、やっぱりこの人、明日も僕を呼び出すつもりだよ。「そして今日という愛の終わりは新しい明日という名の恋を連れてくる」わぁーこの人、もうすでに、次の恋する気、満々だよー。「でも、それにはしっかりサヨナラしなきゃいけないのだよっ。終わ~り~♪は、始まり~♪これは儀式みたいなものなのぉ。うふふ。すみませんー同じのくださーい!」儀式って、僕は贄なのね。イケニエなのね。僕も店員さんに言いたい。すみませんー助けてくださーい!自分、脚本書かねばならぬのですが~とは演劇のエの字も知らない彼女には言えず、僕は二晩、仕事の前に、彼女の飲みに付き合わされることになる。ちなみに言っておくけれど、彼女とは友達でもなんでもないよ。シツコイようだけれど。恋愛な話をたっぷり聞いて、すっかり僕もひとつ恋愛を終えたような気になっている。愛川です。
次回の稽古は6月12日の土曜日の13時ー17時です。
場所は要町和室です。(いつも池袋周辺で稽古)
稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp
次回の稽古は6月12日の土曜日の13時ー17時です。
場所は要町和室です。(いつも池袋周辺で稽古)
稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。
興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
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by moving_sheep
| 2010-06-09 19:10
| 稽古場レポート
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