稽古場情報  遠くからの手紙

僕の前からいなくなってしまった「彼」から手紙が来た。そう、手紙なのだ。メールでも電話でもなく、手紙が来たのだ。僕は優しく丁寧に接しながら残酷なことをする。のだろう。きっと。そうとしか考えられない。あまりにも絶対的なリアルをつきつける。それが事実なのか真実なのか、そんなことは問題じゃない。“リアル”であることが問題なのだ。それが事実と真実を凌駕する。瞬間的な爆発力がすべてを破壊することがあるのだ。僕は何度、そんな瞬間に立ち会ってきたのだろう。そうして人々は心に火山灰を降り積もらせて、何処か遠くへゆくのだ。そんな遠くの「彼」から手紙が来た。僕はなんだかセツナクなった。決して消えることのない痛みが底から、心の深海から浮かび上がってくる。彼は憎んでいた。彼は馬鹿にしていた。彼は決めつけていた。彼は愛していた。彼は届かなかった。彼は自分が分からなくなっていた。彼は許せなかった。世界を。自分を。僕を。そして彼は理解していた。「リアルはただ残酷なんだ」と。去ってゆく人々の問題は、突き詰めるといつも同じ場所に辿り着く。たち現れる“リアル”に絶望するのだ。恐怖するのだ。僕は絶えずそれをツキツケル。「彼」は何処に向かって歩いているのだろうか。僕はそれを知ることはない。決して知ることのない世界を「彼」は歩いてゆく。何故なら二人は違う道を歩くことにしたのだから。いつかまた道が交わることがあるのだろうか?その手紙にはなにげない日常が書かれていた。驚くほどささやかな日常がそこにはあった。でもそこには「止まってしまった時間」がみえかくれする。つまりそこには、限りなく深い苦しみが横たわっていた。ひょっとしたら自分でも気付いていないかもしれない。分からないまま、思いたって僕に筆をはしらせたのかもしれない。あるいはこれは復讐なのかもしれない。あるいは救いを求めているのかもしれない。どちらにせよ、きっと彼はまだ許せないのだ。きっとどうしても許せないのだ。僕は四度、その手紙を読み返した。一度目は涙を流しながら。二度目は絶望しながら。三度目は世界の底をサマヨイながら。四度目はさしこむ光にも似た希望を感じながら。僕は読みおわると手紙を封筒に入れ、送られてきた手紙を(最近はあまりないことだけれど、昔から僕は何故だか手紙をよく貰う。その数々の手紙を)入れているレターケースに「彼」からの手紙をしまった。そうしてカーテンを開け、ドアガラスを開けて空気をいれかえた。風が吹き抜けてゆく。青空が見える。黒猫が屋根を歩いている。ジジジジと何かが降り積もっている音が聞こえる。灰でも降っているのかと思って空を見上げる。勿論、降っているわけがない。ただ、青があるだけだ。僕は「彼」の手紙に書かれていた最後の一文を口に出してみた。「そう最近気づいたんだ。心が心を殺すんだよ。人が人を殺すみたいにさ」僕はふと最近夢でみた、人殺しの感覚を思い出した。僕が人を殺すのだ。それも知らない人ではなく、とても見知った人々を。あまりにも恐怖し、絶望した悪夢だった。リアルは残酷だけれども、だからこそ素晴らしい。それは強さだ。それは美しさだ。それは瞬間たち現れる王国で、そしてリアルを感じている君は王様だ。共有することの出来ない絶対的孤独の中に、痛みも喜びも君だけのものだ。そうして世界の美しさとおぞましさを知る。僕は夜中に一人、ただ、肯定してみた。自分の心も、世界の在り方も、ただ誠実に引き受けてみる。それでいい。それがいい。大切なのは何なのか、気づいたような気がした真夜中だった。そうしてまた歩きだす。愛川です。

次の稽古は6月2日の水曜日の13時ー17時です。

場所は要町和室になります。(いつも池袋周辺で稽古)

稽古は毎週、集まる人に合わせて脚本を書いています。
基礎トレと移動する羊オリジナルメソッド(かなり心と身体を使う)とテキストで作品作り。

興味のある方は是非、愛川のアドレスに「稽古場参加希望」とタイトルに書いてメールください。
アドレス。
loveriver@di.pdx.ne.jp

by moving_sheep | 2010-05-28 17:36 | 稽古場レポート | Trackback
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移動する羊による稽古場の一つであり、呟きの場であり、表現の場所 物語・小説・詩・遊び


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